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βグルカンとは?研究で報告される働きと、多く含む食品・正しい摂り方を解説

この記事でわかること

  • 「βグルカン」は1種類ではなく、穀物由来とキノコ由来で性質が異なることがわかります。
  • コレステロールや血糖値に対する科学的な報告と、免疫に対する現在の研究到達点を区別して理解できます。
  • 「1日何グラム摂ればいい?」という疑問に対し、具体的な食品量での目安がわかります。
  • 「がんが治る」といった誇大な広告にだまされないための知識が身につきます。

βグルカンの正体|由来によって変わる「2つの顔」

「免疫に良い」「血液サラサラ」など、様々なイメージで語られるβグルカンですが、実は「どの食品から摂るか」によって、その構造と期待できる働きが大きく異なることをご存知でしょうか。

βグルカンは、ブドウ糖(グルコース)が多数つながった「多糖類」の一種で、大きく分類すると「食物繊維」の仲間です。しかし、そのつながり方(化学構造)の違いによって、私たちの体内で見せる顔は2つに分かれます。

1. 穀物由来(大麦・オーツ麦など)

  • 主な働き: 「代謝機能」へのアプローチ
  • 特徴: 水に溶けやすく(水溶性)、消化管内でネバネバとした粘性を持ちます。この「粘り」が、糖や脂質の吸収を穏やかにするカギとなります。欧米では、心臓の健康維持に関する表示が認められているのは主にこちらのタイプであり、公的機関の評価の多くがこの穀物由来βグルカンを対象としています[1][4][7]。

2. キノコ・酵母由来(シイタケ・パン酵母など)

  • 主な働き: 「生体防御」へのアプローチ(研究段階)
  • 特徴: 特殊な螺旋(らせん)構造などを持ち、私たちの免疫細胞にあるセンサー(受容体)に「異物だ!」と認識されやすい形をしています。これが免疫系に作用する理由と考えられていますが、水に溶けにくいものが多く、食品としての効果はまだ研究途上にあります。

この章のポイント

  • βグルカンは「食物繊維」の一種です。
  • 穀物由来はコレステロールや血糖値対策の研究が進んでいます。
  • キノコ由来は免疫研究の対象ですが、医薬品とは区別が必要です。

【確度:高】研究で報告されている「3つの健康関連作用」

ここでは、世界中の研究機関や各国の規制当局(FDAやEFSAなど)によって評価されている作用について解説します。これらは主に「大麦やオーツ麦などの穀物由来βグルカン」に関するものです。

1. コレステロール値の低下への寄与

もっともエビデンスが豊富なのがこの分野です。穀物由来のβグルカンは、腸内で粘り気のあるゲル状になり、胆汁酸(コレステロールから作られる消化液)を包み込んで体外へ排出します。体が減った分の胆汁酸を補おうとして血中のコレステロールを消費するため、結果としてLDL(悪玉)コレステロール値の低下に寄与することが複数の研究で報告されています[1][3][4]。

2. 食後血糖値の上昇を抑える

βグルカンの「粘り」は、胃から小腸への食べ物の移動をゆっくりにします。これにより、糖質の吸収スピードが緩やかになり、食後の急激な血糖値上昇(血糖値スパイク)を抑える働きが期待されています。このメカニズムは、日本の「機能性表示食品」や「特定保健用食品(トクホ)」の根拠としても広く用いられています[1][4]。

3. 腸内環境を整える(プレバイオティクス)

βグルカンは人間の消化酵素では分解されず、大腸まで届きます。そこでビフィズス菌などの善玉菌のエサとなり、発酵分解されます。この過程で産生される「短鎖脂肪酸」が、腸内環境を酸性に保ち、お腹の調子を整える働きをします[5]。

関連記事

この章のポイント

  • コレステロール・血糖値ケアには、穀物由来のβグルカンが役立つ可能性があります。
  • そのメカニズムは、物理的な「粘り(粘性)」によるものです。

コレステロールケアの目安は「1日3g」

では、実際にどのくらい食べれば良いのでしょうか。

コレステロール・血糖値ケアの目安

アメリカ(FDA)やヨーロッパ(EFSA)の基準では、大麦やオーツ麦由来のβグルカンを健康的な食事の一部として「1日3g以上」摂取することで、主に正常なLDL(悪玉)コレステロール値の維持に役立つとされています[4][7]。

これは、「3g摂れば何を食べても良い」という意味ではありません。「飽和脂肪酸やコレステロールの少ない食事の一部として、βグルカンを1回1g以上含む食品を1日複数回摂る」といった条件での摂取が推奨されています。

血糖値に関する研究では、1回の食事あたりの摂取量など試験ごとに条件が異なります(例えばEUでは「炭水化物30gを含む食事に4g以上のβグルカンが含まれること」といった条件で表示が認められています[4])。そのため、ここでの「1日3g」はあくまでコレステロールを中心とした目安と考えてください。まずはこの量を目標にすることで、血糖値ケアも含めた全体的なメリットが期待できます。

食物繊維全体とのバランスは?日本人の食物繊維の目標量は、成人の目安として男性約20〜22g以上、女性18g以上です(年齢により異なります)[6]。βグルカンの「3g」は、この目標量の一部を質の高い水溶性食物繊維で強化するイメージで考えると良いでしょう。

食品別に見ると「もち麦ごはん2杯・オートミール2食」

「3g」を食品で摂るための目安は以下の通りです。

  • もち麦ごはん: お茶碗 約2杯(精白米に対し3〜5割混ぜた場合)
  • オートミール: 約60g(1食30g × 2回分)

なお、これらはあくまで平均的な「目安量」です。品種や加工方法によって実際の含有量は大きく変動します(乾燥重量100gあたりオーツ麦3〜8g、大麦2〜20g程度など[1])。より正確に把握するためには、パッケージ裏面の栄養成分表示(食物繊維やβグルカン量)もあわせて確認しましょう。

摂りすぎの上限量はある?

明確な上限量は設定されていませんが、食物繊維の一種であるため、一度に大量に摂るとお腹が緩くなったり、ガスが溜まったりすることがあります。まずは少量から始めて、自分の体調に合わせて調整してください。

この章のポイント

  • コレステロール対策の目安は、国際的な基準で「1日3g」とされています。
  • 食事なら「もち麦ごはん2杯」か「オートミール2食」でクリアできます。
  • いきなり大量に摂るとお腹が張るため、少量から慣らすことが大切です。

【確度:中〜低】「免疫」と「がん」に関する研究の現在地

多くの読者が期待する「免疫」や「がん」への作用については、誤解を恐れずに言えば「過度な期待は禁物」な領域です。ここでは、現在わかっていることと、まだわかっていないことを正直にお伝えします。

「免疫サポート」の可能性と限界

キノコや酵母由来のβグルカンが、マクロファージなどの免疫細胞に作用することは、主に試験管内や動物実験レベルで報告されています[2]。しかし、「口から食べた(経口摂取)」場合に、ヒトで風邪や感染症を確実に防げるかという点については、研究結果が分かれています[9]。

  • 事実: 一部の研究では、特定の酵母由来βグルカン製剤を用いた試験で、風邪様症状がやや軽減したとする結果も報告されています[8]。
  • 注意点: 欧州食品安全機関(EFSA)は、特定のパン酵母由来βグルカン製品(例:Yestimun®)について申請された「免疫防御機能(上気道感染からの防御など)」に関する健康強調表示について、現時点では科学的根拠が不十分だとして認めない判断を示しています[12]。

現時点では、「免疫細胞を元気にする可能性はあるが、『感染症を絶対に防ぐ』『免疫力が劇的に上がる』とまでは言えない」というのが誠実な科学的評価です。

「がん」についての重要な区別

「シイタケの成分ががん治療に使われている」というのは事実ですが、使われているのは「レンチナン」という医薬品(注射剤)です。これは医師の管理下で血管に直接投与されるものです[10]。一般のサプリメントや食品として「口から食べた」場合に、同様にがんが治るという確かなエビデンスはありません。

βグルカンを多く含む食品と選び方

サプリメントに頼らなくても、日々の食事で十分に摂取できます。

おすすめ食品リスト

食品名含有量の目安(乾燥重量100gあたり)特徴・おすすめの食べ方
大麦(もち麦)約3.0〜6.0g含有量トップクラス。白米に混ぜて炊くだけで手軽。[1]
オートミール約3.0〜5.0g全粒穀物なので食物繊維全体も豊富。リゾット化がおすすめ。[1]
マイタケ※乾燥重量比で豊富「D-フラクション」という成分が研究されていますが、これは主に濃縮成分を指します。食事では、汁ごと食べて栄養を余さず摂るのがポイントです。
シイタケ※乾燥重量比で豊富旨味成分も豊富。干し椎茸なら戻し汁も活用を。

コンビニ・外食派の方へ

自炊が難しい場合でも、以下のようなメニューを選ぶことでβグルカンを摂取できます。

  • おにぎりコーナー: 「もち麦入り」「大麦入り」「雑穀米」のおにぎりを選ぶ。
  • スープ・味噌汁: 「きのこスープ」「なめこの味噌汁」など、水溶性の成分が溶け出した汁物をプラスする。
  • 朝食: オートミール入りのシリアルやグラノーラを選ぶ。

効果実感までの時間軸

「食べてすぐ効く」ものではありません。

  • お通じの変化: 早ければ数日〜2週間程度で実感する方が多いです。
  • 数値(コレステロール等): 細胞や血液が入れ替わるサイクルを考えると、数ヶ月単位でゆっくり変化するイメージで続けてください。

【注意喚起】詐欺的な広告や商法にだまされないために

βグルカンは優れた健康成分ですが、残念ながらその期待につけ込むような、科学的根拠を逸脱した悪質な広告も存在します。読者の皆様が健康とお金を守るために、以下の点には特に注意してください。

1. 「標準治療の代替」にするのは非常に危険

「病院の治療は毒だ」「このサプリでがんが消える」といった言葉で、標準治療(手術や抗がん剤など)を中断させ、高額なサプリメントや民間療法を勧めるケースがあります。βグルカンのサプリメントはあくまで「食品」であり、治療薬ではありません。絶対に自己判断で標準治療を中断しないでください。

2. 「免疫力アップ」という言葉の罠

「免疫力が上がる」という表現は医学的に非常に曖昧です。特定の食品やサプリメントを大量に摂るだけで、複雑な免疫システムが劇的に強化されることはありません。逆に、特定の食品ばかりを過剰摂取することで栄養バランスが崩れ、かえって健康を損なうリスクもあります。

健全な付き合い方:健康食品としてβグルカンを利用する場合も、あくまで普段の食事を補う位置づけと考えましょう[11]。持病がある方や薬を服用中の方は、自己判断で摂取量を増やす前に医師や薬剤師に相談してください。

よくある質問(FAQ)

Q. サプリメントで摂ったほうが効率的ですか?

A. 基本的には「食品(全粒穀物やキノコ)」からの摂取をおすすめします。食品にはβグルカン以外にも、ビタミン、ミネラル、他の食物繊維など、健康維持に必要な栄養素が複合的に含まれているからです。自然な食品から摂ることで、特定の成分の過剰摂取リスクも防げます。

Q. βグルカンと他の食物繊維(イヌリンなど)の違いは?

A. どちらも腸内環境には良いですが、穀物由来のβグルカンは特に「粘り(粘性)」が強いため、コレステロールの吸着排出や、糖の吸収を穏やかにする働きについてよく研究されています。これまでの研究では、コレステロール値や食後血糖のコントロールに役立つ可能性が示されています。

まとめ:今日からできる小さな一歩

βグルカンは「魔法の薬」ではありませんが、私たちの健康、特に「腸内環境」「コレステロール」「血糖値」を支えてくれる、非常に頼もしいパートナーです。

サプリメントの広告にあるような劇的な効果を追い求めるのではなく、まずは明日の朝食を「オートミール」にしてみる、あるいはコンビニで「もち麦おにぎり」を選んでみる。そんな地に足のついた選択こそが、あなたの体を内側から守る最も確実な方法です。


免責事項

この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスに代わるものではありません。持病のある方、妊娠中の方、その他健康に不安のある方は、必ず事前に医師や管理栄養士にご相談ください。特に現在何らかの治療を受けている方は、自己判断で健康食品を利用せず、主治医の指示に従ってください。

参考文献

[1] Tosh SM, Bordenave N. Emerging science on benefits of whole grain oat and barley and their soluble dietary fibers for heart health, glycemic response, and gut microbiota. Nutr Rev. 2020;78(Suppl 1):13–20.
DOI: 10.1093/nutrit/nuz085
PMID: 32728756
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32728756/

[2] Goodridge HS, Wolf AJ, Underhill DM. Beta-glucan recognition by the innate immune system. Immunol Rev. 2009;230(1):38–50.
DOI: 10.1111/j.1600-065X.2009.00793.x
PMID: 19594628
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19594628/

[3] Llanaj E, Dejanovic GM, Valido E, et al. Effect of oat supplementation interventions on cardiovascular disease risk markers: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Eur J Nutr. 2022;61(4):1749–1778.
DOI: 10.1007/s00394-021-02763-1
PMID: 34977959
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34977959/

[4] EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA). Scientific Opinion on the substantiation of health claims related to beta-glucans from oats and barley and maintenance of normal blood LDL-cholesterol concentrations, increase in satiety leading to a reduction in energy intake, reduction of post-prandial glycaemic responses, and “digestive function” pursuant to Article 13(1) of Regulation (EC) No 1924/2006. EFSA J. 2011;9(6):2207.
DOI: 10.2903/j.efsa.2011.2207
URL: https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/2207

[5] Jayachandran M, Chen J, Chung SSM, Xu B. A critical review on the impacts of β-glucans on gut microbiota and human health. J Nutr Biochem. 2018;61:101–110.
DOI: 10.1016/j.jnutbio.2018.06.010
PMID: 30196242
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30196242/

[6] 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書. 2024.
URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html

[7] U.S. Food and Drug Administration. Health claims: soluble fiber from certain foods and risk of coronary heart disease. Code of Federal Regulations, 21 CFR §101.81. 1997.
URL: https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-B/part-101/subpart-E/section-101.81

[8] Dharsono T, Rudnicka K, Wilhelm M, Schoen C. Effects of yeast (1,3)-(1,6)-beta-glucan on severity of upper respiratory tract infections: a double-blind, randomized, placebo-controlled study in healthy subjects. J Am Coll Nutr. 2019;38(1):40–50.
DOI: 10.1080/07315724.2018.1478339
PMID: 30198828
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30198828/

[9] De Marco Castro E, Calder PC, Roche HM. β-1,3/1,6-Glucans and immunity: state of the art and future directions. Mol Nutr Food Res. 2021;65(1):e1901071.
DOI: 10.1002/mnfr.201901071
PMID: 32223047
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32223047/

[10] 医薬品医療機器総合機構. レンチナン静注用1mg 添付文書. 田辺三菱製薬.
URL: https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=4299401D1083

[11] 国立がん研究センター がん情報サービス. がんと民間療法(健康食品・サプリメント・食事療法を中心に). 2022.
URL: https://ganjoho.jp/public/dia_tre/cam/health_food_products.html

[12] EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA). Scientific Opinion on the substantiation of health claims related to Yestimun® (beta-glucans from Saccharomyces cerevisiae) and defence against pathogens in the upper respiratory tract. EFSA J. 2013;11(4):3159.
DOI: 10.2903/j.efsa.2013.3159
URL: https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/3159

末岡 啓吾

末岡 啓吾

パーソナルトレーニングジム「PriGym」代表トレーナー。
博士(理学)・NSCA認定トレーナー・パワーリフティング元日本記録保持者。
科学と実践の両軸で、一人ひとりの成長を支えます。