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時間栄養学ダイエット入門:「何を」よりも「いつ」食べるかという新常識
この記事でわかること
- 「食べていないのに太る」原因:体内時計と代謝遺伝子「BMAL1(ビーマルワン)」の関係がわかります。
- 代謝スイッチの入れ方:朝食がもたらす「食事誘発性熱産生(DIT)」の重要性が理解できます。
- 夜型タイプへの救い:「夜型は意志が弱い」という誤解を解き、遺伝子に合った食事戦略が見つかります。
- 今日からできる実践法:忙しい夜でも脂肪を溜め込まない「分食(ぶんしょく)」テクニックを学べます。
まずは「明日からこれだけやってみる」3つの行動
理論を知る前に、まずは効果的なアクションを知りたい方へ。明日から以下の3つを意識するだけで、あなたの体内時計は整い始めます。
- 朝起きたら、まずカーテンを開けて光を浴びる
- 起床後1時間以内に、バナナやヨーグルトなど軽い朝食を入れる
- 21時以降に食べる日は、夕方に主食、夜はおかずだけの「分食」にする
なぜこの3つが効くのか? その理由と、さらに効果的な応用テクニックをこれから詳しく解説します。
なぜ「夜遅い食事」は太るのか?:脂肪合成に関わる「BMAL1」
「夜食べると太る」という話は昔から言われていますが、これには分子レベルでの根拠があります。その鍵を握るのが、時計遺伝子の一つであるタンパク質、「BMAL1(ビーマルワン)」です。
BMAL1(ビーマルワン)の働き
BMAL1には、脂肪や糖の代謝リズムに関わり、脂肪が蓄積されやすい時間帯に影響している可能性が示唆されているという、ダイエッターにとっては少し厄介な側面があります[1]。なお、こうした知見の多くは主に動物実験に基づくものであり、人での理解はまだ研究の途上です。
重要なのは、このBMAL1の量が1日の中で変動するという点です。主に動物実験レベルでの知見ではありますが、以下のようなリズムが確認されています。
- 比較的少ない時間帯(太りにくいと考えられる時間帯の一例):おおむね日中〜夕方
- 比較的多い時間帯(太りやすいと考えられる時間帯の一例):おおむね夜間〜深夜
【重要】夜型・シフトワークの方へ上記の時間は標準的な生活(23時就寝・7時起床など)の場合です。BMAL1のリズムは体内時計に依存するため、夜型生活の人の場合、ピークの時間も後ろにズレこむ(例:明け方〜早朝にBMAL1が多くなる)と考えられています。
なお、これらのBMAL1リズムは主に夜行性の実験動物で確認されたパターンであり、ヒトでは「体内時計から見て遅い時間の食事が太りやすい傾向がある」程度までが、現時点で比較的はっきりしている部分です。
とはいえ、ヒトを対象とした観察研究でも、「体内時計からみて遅い時間の食事摂取」は体脂肪の増加と明確に関連していることが報告されています[5]。
この章のポイント
- 脂肪を溜め込むタンパク質「BMAL1」は、夜間(休息期)に増えやすいと考えられている。
- 日中〜夕方はBMAL1が比較的少ないとされ、代謝が良い「おやつタイム」として活用しやすい可能性があります(あくまで目安です)。
- 夜型の場合、「朝の時間帯」が体内時計にとっての「夜(BMAL1が多い時間)」である可能性があるため注意が必要。
朝食は「代謝のスイッチ」:体温とDITの関係
体内時計には、脳にある「親時計」と、内臓や筋肉にある「子時計」の2種類があります。脳の親時計は「朝の光」でリセットされますが、肝臓などの子時計を動かし、代謝活動をスタートさせる主なきっかけの一つが「朝食」です[2]。
食事誘発性熱産生(DIT)の力
食事をすると、体がポカポカと温かくなるのを感じたことはありませんか? これは消化吸収のためにエネルギーが熱として消費される「食事誘発性熱産生(DIT)」という現象です。
興味深いことに、同じカロリーの食事を摂っても、朝は夜に比べて、このDITによるエネルギー消費量が大きい(約2倍高いという報告もあります)ことが分かっています[3]。つまり、朝食をしっかり食べることは、1日を通じたエネルギー消費を増やしやすくし、「燃えやすい状態」をサポートする可能性があるのです。
逆に、朝食を抜くと体内時計のリセットが不十分になり、体温リズムや代謝のメリハリがつきにくくなる可能性があると指摘されています。これは厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書においても、健康リスクとして懸念されています[4]。
この章のポイント
- 朝食は内臓の時計(子時計)をリセットする重要なスイッチの一つ。
- 朝は食事による熱産生(DIT)が高く、エネルギー消費効率が良い。
- 朝食抜きは「時差ボケ」のような状態を招き、不調の原因になりうる。
【大事なポイント】「タイミングさえ変えれば好き放題食べていい」わけではない
ここで、科学的に誠実な情報をお伝えしなければなりません。「時間栄養学」は魔法ではありません。
最新研究が示す「カロリー制限」の壁
2022年に世界的な医学誌『New England Journal of Medicine』で発表された厳格な研究では、肥満の方を対象に「カロリー制限のみ」と「カロリー制限+時間制限(8:00-16:00に摂取)」を比較しました。
その結果、12ヶ月後において両グループともに体重は減少しましたが、「カロリー摂取量が完全に同じであれば、時間を制限しても減量幅に有意な差はなかった」と報告されています[6]。
それでも「時間」を意識すべき理由
「じゃあ、時間は関係ないの?」とがっかりしないでください。この研究結果は、「食事のタイミングを工夫しても、総カロリーが多すぎれば減量効果は頭打ちになる」ということを示しているに過ぎません。
時間栄養学を取り入れることで期待できる大きなメリットの一つは、「食欲のコントロール」や「代謝の効率化」に役立つ可能性があることです。適切な時間に食べることで、血糖値の乱高下をある程度抑え、無駄な空腹感を和らげ、結果として「無理なく適正カロリーを意識しやすくなる」ことが、このメソッドの狙いです[7]。※すべての人に同じ効果が現れるわけではありません。
この章のポイント
- 「いつ食べてもカロリーはカロリー」。総摂取量が多すぎれば痩せない。
- しかし、時間を整えることで「食欲」と「代謝」が安定する。
- 時間栄養学は、無理な我慢を減らすための強力な「サポートツール」だが、肥満や糖尿病などの医療的な治療・指導を置き換えるものではない。
あなたは悪くない?「夜型」遺伝子と社会的時差ボケ
「朝食が良いのは分かっているけれど、朝はお腹が空かない」「夜になると目が冴えて食べてしまう」そんな自分を「意志が弱い」と責めていませんか?
実は、朝型か夜型か(クロノタイプ)は、遺伝子によってある程度決まっていることが分かっています。
社会的時差ボケ(Social Jetlag)の罠
夜型の遺伝子を持つ人が、無理をして社会的な朝型スケジュール(朝早く起きて出社するなど)に合わせようとすると、体内時計と生活時間の間にズレが生じます。これを「社会的時差ボケ(Social Jetlag)」と呼びます[9]。
研究によると、このズレが大きい人ほど、BMIが高く、肥満やメタボリックシンドロームのリスクが高い傾向にあります[9][10]。
注意:「夜型さんの朝ごはん」は「夜食」かもしれない?
ここで夜型の方が特に注意すべき点があります。それは、「世間の朝ごはんの時間」が、あなたの体内時計にとっては「深夜」かもしれないということです。
例えば、明け方4時に寝るタイプの人にとって、朝7時や8時は「寝る直前の時間帯(生物学的な夜)」です。この時、体内ではBMAL1が多くなっていると考えられます。
「朝だからしっかり食べなきゃ」と、寝る直前の朝7時にカツ丼やパンケーキを食べるのは、標準的な人が深夜3時にそれを食べるのと同じリスクがあるかもしれません。
- これから寝る場合(夜勤明けや完全夜型):朝の時間帯であっても、食事は「消化の良い夕食」のように軽く済ませるのが正解です。
- これから活動する場合(無理して起きた場合):体内時計がまだ寝ている可能性があるため、起床直後いきなり高糖質なものを摂らず、1時間ほどあけてから食べるのがベターです。
この章のポイント
- 朝型・夜型は「クロノタイプ」という遺伝的特性が影響している。
- 夜型の人にとっての「朝」は、体内時計の「夜」である可能性があり、無理なドカ食いは逆効果。
- 自分を責めるのではなく、自分のタイプに合った「次善の策」を探すことが大切。
実践編:夜型・多忙な人への「セカンドベスト」戦略
理想通りの生活ができない人のために、現実的で効果的な「次善の策(セカンドベスト)」をご紹介します。
① 夜型さんの朝食ルール
起床直後に無理に食べる必要はありません。
- 起床後1時間以内を目安に:起きてすぐではなく、少し身支度をしてから、バナナ1本やプロテインドリンクなど、軽いものをお腹に入れて「体内時計のスイッチ」だけ押しましょう[11]。
- 光を浴びる:食べるのと同時に、カーテンを開けて光を浴びることが重要です。
② 遅くなる日の必殺技「分食(ぶんしょく)」
夕食が21時以降になりそうな日は、食事を2回に分ける「分食」がおすすめです[11]。
- 夕方(17時〜19時頃):おにぎりやサンドイッチなどの「主食(炭水化物)」を会社で食べておきます。ここはBMAL1がまだ低い時間帯なので、エネルギーとして消費されやすいです。
- 帰宅後(21時以降):おかず(野菜、肉、魚、豆腐など)やスープのみを食べます。炭水化物を控えることで、深夜の脂肪合成リスクを最小限に抑えます。
この方法なら、空腹を我慢することなく、総カロリーを変えずに「太りにくい食べ方」を実現しやすくなります。
※注意: 糖尿病などで治療中の方は、自己判断で食事パターン(特に炭水化物のタイミング)を変えず、必ず主治医や管理栄養士の指示を優先してください。成長期の子どもが同様の分食パターンをとる場合も、保護者や医療専門職と相談のうえで行いましょう。
この章のポイント
- 夜型は「起床後1時間以内の軽い食事」で時計を動かす。
- 遅くなる日は、夕方に炭水化物、帰宅後におかずの「分食」を。
- 完璧を目指さず、自分の生活リズムの中で「ベター」な選択をする。
よくある質問と「しないこと」リスト
ここでは、読者の皆様が陥りやすい誤解について、対話形式で整理します。
Q. 夜勤で朝方に帰宅します。食事はどうすればいいですか?
A. 帰宅後すぐに寝る場合は、時間帯が「朝」であっても、体にとっては「深夜の夜食」と同じ状態(BMAL1が多い状態)と考えられます。ガッツリ食べるのは避け、消化の良いスープやおかゆなどを少量摂る程度に留めましょう。逆に、起きた後の最初の食事(夕方など)を「朝食」とみなしてしっかり食べるのがおすすめです。
Q. 16時間断食(朝食抜き)が良いと聞きましたが?
A. 「16時間断食」は総カロリーを減らしやすい有効な方法の一つですが、合う・合わないの個人差が大きいです。特に、成長期の子ども・10代、高齢者、やせすぎの方、摂食障害の既往がある方、糖尿病などで治療中の方、妊娠中・授乳中の方には、自己判断での実践は推奨されません。必ず主治医や管理栄養士と相談してください。また、午前中に活動する人や筋肉量を維持したい人が朝食を抜くと、エネルギー不足で筋肉が分解されたり、昼食後の血糖値スパイク(急上昇)を招いたりするリスクがあります。「朝食を抜いて調子が悪い」と感じる場合は、無理に続ける必要はありません。
⚠️ やってはいけないことリスト(Don’ts)
- ❌ 「夜食べちゃったから」と、翌日の朝食を完全に抜く
- → 解説: 空腹時間が長引きすぎると、次の食事で血糖値が急上昇し、かえって脂肪を溜め込みやすくなります。翌朝は消化の良いスープやフルーツなどを少量でも摂り、リズムを整えましょう。
- ❌ 寝る直前に「熱いお風呂」や「激しい運動」をする
- → 解説: 体温を上げすぎる熱いお風呂や激しい運動は、かえって眠りの質を落とし、結果として生活リズムを乱しやすくなります(就寝1〜2時間前までに済ませるのが理想的です)[8]。
- ❌ 「時間内なら何を食べてもいい」と過信する
- → 解説: 時間制限をしていても、暴飲暴食をすれば当然太ります。
✅ 代わりに心がけたいこと(Do’s)
- ⭕ 夕食は「寝る2〜3時間前」までに終えることを目標にする。
- ⭕ 朝起きたら、まずカーテンを開けて「光」を浴びる。
- ⭕ 夜遅い食事は、消化の良い温かいものを選ぶ。
まとめ:時間を「制約」ではなく「味方」にする
時間栄養学は、「〇時以降は絶対に食べてはいけない」という厳しい法律ではありません。それは、私たちの体が本来持っているリズムを知り、「いつ食べれば体が喜ぶか」を教えてくれる羅針盤のようなものです。
完璧な生活ができなくても大丈夫です。「今日は遅くなるから分食しよう」「休日は遅起きしたけれど、まず光を浴びよう」。そんな小さな積み重ねが、あなたの代謝を少しずつ良い方向に整えていく助けになります。
まずは明日の朝、起きてカーテンを開けることから始めてみませんか?
免責事項:この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスに代わるものではありません。持病(糖尿病や脂質異常症など)のある方、妊娠中の方、その他健康に不安のある方は、食事のタイミングや内容を大きく変更する前に、必ず医師や管理栄養士にご相談ください。
最新情報の注記:この記事は、2025年11月時点で参照可能な研究報告および厚生労働省などの公的ガイドラインをもとに作成しています。科学的知見は日々更新される可能性があることをご了承ください。
参考文献
-
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