DHA・EPAの効果とは?中性脂肪への働きと摂取量・食品・サプリの注意点【科学的根拠で解説】
「健康診断で中性脂肪を指摘された…」
「DHA・EPAが良いと聞くけれど、サプリは本当に飲む価値がある?」
「魚を食べるのが大事なのはわかるけど、具体的にどうすれば?」
健康への関心が高まる中で、オメガ3脂肪酸、特にDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)の重要性が注目されています。しかし、情報が溢れるあまり、「何が科学的に正しくて、どこまで期待して良いのか」を見極めるのは難しいと感じていませんか?
この記事では、そのような疑問に対し、最新の科学的根拠(エビデンス)に基づいて、網羅的にお答えします。
【30秒でわかる】この記事の結論:目的別 早見表(◎: 期待度 高/○: 中/△: 限定的)
時間がない方のために、先に結論をまとめます。
目的 | 期待度 | 推奨アクション | 注意点 |
---|---|---|---|
中性脂肪を下げたい | ◎ | まずは魚を週2–3回。必要に応じてサプリを補助的に利用。 | 処方薬を服用中の方は、必ず医師に相談。 |
心血管疾患を予防したい | △ | 魚中心の健康的な食生活が基本。 | 一般的なサプリによる予防効果は限定的。 |
認知機能を維持したい | △ | 食生活全体の質を向上させ、その一環として魚を摂取。 | サプリによる明確な予防効果は未確立。 |
一般的な健康維持 | ○ | 週2~3回の魚食を習慣化し、バランスの取れた食事を心がける。 | サプリはあくまで食事の補助。 |
そもそもDHA・EPA・ALAとは?今さら聞けない基本の「違い」
DHAは脳や目に、EPAは血液や血管で主に働く、体内で作れない必須の栄養素です。
これらはどちらも「オメガ3(n-3系)脂肪酸」の仲間で、植物由来のALAからも少量作られますが、変換効率はあまり高くありません[7]。
そのため、DHAとEPAは魚から直接摂るのが最も効率的です。
【コラム】もっと知りたい方へ:DHAとEPA、働き方の「違い」
DHAとEPAは一緒に摂ることが多いですが、実はそれぞれ得意なことが少し違います。最新の研究からわかってきた、主な働きの違いをいくつかご紹介します。
- 中性脂肪とコレステロールへの影響
複数の研究をまとめると、DHAの方が中性脂肪を下げる効果や善玉(HDL)コレステロールを上げる効果がやや強い傾向があります。一方で、悪玉(LDL)コレステロールも少し上がりやすいと報告されています。EPAは、LDLコレステロールを上げにくいのが特徴です[1, 2]。 - 血圧と心拍数への影響
健康な人を対象とした研究で、DHAには心拍数と血圧(拡張期)を穏やかに下げる作用が報告されましたが、EPAでは同様の効果は見られませんでした[3]。 - 心血管イベントへの影響
すでに心血管疾患のリスクが高い患者さんにおいては、EPA単剤(高用量の医薬品)が心筋梗塞などのリスクを下げたという有名な研究(REDUCE-IT)があります[4]。一方で、EPAとDHAを混ぜたものでは、明確な効果が示されませんでした(STRENGTH)[5]。
【コラムのまとめ】
このように、目的によってどちらがより注目されるかは異なりますが、日本の「食事摂取基準」ではDHAとEPAを分けた目標量は設定していません[6]。まずは両方をバランスよく含む青魚を食生活の基本とすることが、最も現実的で賢明なアプローチと言えるでしょう。
DHA・EPAの効果【エビデンス強度別】
ここでは科学的な証拠の強さを「確立」「条件付き」「研究中」の3段階で解説します。
【確立】中性脂肪(トリグリセリド)の低下
DHA・EPAの最も確かな効果は、血中の中性脂肪値を下げることです。 なぜなら、多くの質の高い研究で一貫してその有効性が報告されており、科学的にも広く認められているからです[7]。健康診断で中性脂肪値が気になる方は、まず食生活に青魚を取り入れることから始めるのが最も確実な一歩と言えるでしょう。
なぜDHA・EPAは中性脂肪を下げるのでしょうか。主な理由として、科学的には以下の2つの働きが報告されています。
- 肝臓で中性脂肪が過剰に作られるのを抑える働き
- 血液中の中性脂肪の分解を促す働き
【条件付き】心血管疾患(CVD)の予防
魚を食べる食習慣は心血管疾患の予防に役立つ可能性がありますが、サプリメントで誰でも予防できるわけではありません。 近年の大規模な臨床試験では、一般の健康な方への予防効果は限定的であると示されています[8, 9]。高リスクの方を対象とした研究では、EPA単剤の医薬品で効果が示された例[4]もありますが、これは特殊なケースです。したがって、サプリに頼るのではなく、魚を含むバランスの取れた食事を心がけることが基本です。
【研究中】認知機能の維持・向上
現時点では、DHA・EPAサプリで認知症が予防できるという確かな証拠はありません。 脳の重要な構成成分であるため期待は大きいものの、信頼性の高い複数の研究を検証した結果[10]、健康な高齢者の認知機能の低下を防ぐ効果は小さいか、認められないと報告されています。「サプリで予防」と考えるのは時期尚早であり、総合的な生活習慣の改善が推奨されます。
DHA・EPAに関するよくある誤解
「コレステロール値も必ず下がる?」→ 答え:いいえ、効果は限定的です。
DHA・EPAの主な働きは中性脂肪の低下です。悪玉(LDL)コレステロールへの影響は一貫しておらず、むしろDHAではわずかに上昇する場合もあります[1, 2]。
摂取量・タイミング・食品
摂取目標量とタイミング
オメガ3脂肪酸全体で1日1.6~2.2gが摂取の目安で、サプリは「食後」に摂るのが最も効率的です。 厚生労働省の基準[6]ではDHA・EPA・ALAを合計した量で目安が示されています。また、DHA・EPAは脂溶性のため、食事の脂肪分と一緒に摂ることで吸収が良くなります。まずは週2~3回の魚食でこの目安量達成を目指し、サプリを使う場合は食後に習慣づけましょう。
食品で摂る(魚種別含有量とサバ缶の活用法)
青魚、特にサバやイワシはDHA・EPAの宝庫であり、サバ缶1つでも1日の目標量を十分に補えます。 文部科学省の食品成分データベース[11]によれば、「さば水煮缶」には100gあたり2.73gものn-3系脂肪酸が含まれています。手軽でおすすめなサバ缶やイワシ缶を常備し、缶汁も塩分に注意しつつ活用すると良いでしょう
【実践プラン】今日から始めるDHA・EPA摂取
初めての7日間プラン(献立例)
曜日 | 現実解アクション | 代替案 | メモ |
---|---|---|---|
月曜 | サバ缶+サラダ | ツナ水煮+豆腐 | 汁ごと活用で効率アップ |
水曜 | 外食で焼きサケ定食 | サバ味噌定食 | 小鉢で野菜を追加 |
金曜 | イワシ蒲焼缶で丼 | オイルサーディンのトマト煮 | 塩分は汁の量で調整 |
週末 | 自炊でさんま塩焼き | ブリ照り焼き | 手のひらサイズ(約80g)が目安 |
コンビニ・外食での賢い選択肢
シーン | 最優先 | 次点 | 注意 |
---|---|---|---|
コンビニ | サバ水煮缶 | ツナ水煮缶(ノンオイル) | 汁の塩分に配慮 |
外食(定食) | 焼きサバ定食 | サーモン・アジの定食 | 揚げ物は頻度を控えめに |
サプリメント利用時の注意点と選び方
TG型とEE型の違いは?あなたに合うDHA・EPAサプリはどっち?
サプリメントの形状による特徴を理解し、自分に合ったものを選びましょう。
形状 | 吸収の傾向 | 濃度の傾向 | 向いている人 | 飲み方のコツ |
---|---|---|---|---|
TG型 | 良いとされる¹ | 中〜高 | 胃腸が弱い/少量で様子見したい | 食後に。継続しやすさ重視 |
EE型 | 食後で改善² | 高濃度を選びやすい | 1粒あたりの含有量を重視 | 必ず食後。脂質を含む食事と |
¹ TG型(再エステル化トリグリセリド型)はEE型(エチルエステル型)よりも長期的な生体利用率が高いことがヒト臨床試験で報告されています[12]。
² EE型は脂質を含む食事と一緒に摂ることで吸収率が大幅に改善することが示されています[13]。
【用途別おすすめ】: まずは続けやすさ重視ならTG型、1粒あたりの含有量を優先するならEE型(食後摂取を徹底)が一つの目安です。
【購入前に】DHA・EPAサプリのセルフチェックリスト5項目
□ 1. DHA+EPAの合計量は十分か?
□ 2. 酸化対策はされているか?
□ 3. 続けやすい形状か?
□ 4. 原料の由来は明確か?
□ 5. 安全性に関する注意喚起はあるか?
副作用と安全性:よくある質問(FAQ)
QDHA・EPAを摂りたいのですが、まず何から始めればいいですか?
今週は「魚料理を2回、サバ缶を1回」食卓に加えることから始めましょう。「毎週水曜は焼き魚、土曜はサバ缶」のように曜日を決めると習慣化しやすくなります。
QDHA・EPAサプリメントに副作用や摂りすぎのリスクはありますか?
通常の摂取量では安全性が高いですが、高用量では吐き気や出血しやすくなるリスクが指摘されます。また、心房細動(不整脈の一種)のリスクについては、Gencerらのメタ解析[14]で1日1gを超える摂取でリスクが上昇する可能性が示唆されています。ただし、1日1g程度の一般的な摂取量では、リスクの有意な上昇は認められなかったという報告もあります[15]。
QDHA・EPAサプリと薬との飲み合わせで注意することはありますか?
血液をサラサラにする薬(ワーファリン、アスピリンなど)を服用中の方は、DHA・EPAサプリの使用前に必ず主治医や薬剤師にご相談ください。効果が強まり出血しやすくなる可能性があります。
Q妊娠中や授乳期にDHA・EPAを摂る場合、どのような注意点がありますか?
はい、むしろ赤ちゃんの脳の発達のために積極的な摂取が推奨されます。ただし、魚の種類によってはメチル水銀に注意が必要です。厚生労働省は、キンメダイ、メカジキ、クロマグロなどは週に1回(約80g)までを目安とするよう注意喚起しています¹。アジ、サバ、イワシ、サンマ、サケなどは安心して食べられます。
¹ 出典:厚生労働省「これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと」[16]
まとめ
DHA・EPAは、私たちの健康維持に重要な役割を果たす栄養素ですが、その効果には科学的な強弱があります。
- 最も確かな効果は「中性脂肪の低下」です。
- 心血管疾患や認知機能への効果は限定的または研究段階であり、サプリメントに過度な期待は禁物です。
- 健康の土台は、週2〜3回の魚食を含むバランスの取れた食事です。サプリメントは、その上で賢く利用する補助的なツールと位置づけましょう。
この記事が、科学的根拠に基づいたあなたの賢い健康選択の一助となれば幸いです。
免責事項
この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスに代わるものではありません。持病のある方、妊娠中の方、その他健康に不安のある方は、サプリメントの摂取を含め、必ず事前に医師や管理栄養士にご相談ください。
参考文献
[1] Choi GY, Calder PC. The differential effects of eicosapentaenoic and docosahexaenoic acids on cardiovascular risk factors: an updated systematic review of randomized controlled trials. Front Nutr. 2024;11:1423228.
[2] Allaire J, et al. High-dose DHA has more profound effects on LDL-related features than high-dose EPA: the ComparED study. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(8):2909-2917.
[3] Mori TA, et al. Docosahexaenoic acid but not eicosapentaenoic acid lowers ambulatory blood pressure and heart rate in humans. Hypertension. 1999;34(2):253-260.
[4] Bhatt DL, et al. (REDUCE-IT). Cardiovascular risk reduction with icosapent ethyl for hypertriglyceridemia. N Engl J Med. 2019;380(1):11-22.
[5] Nicholls SJ, et al. (STRENGTH). Effect of high-dose omega-3 fatty acids vs corn oil on major adverse cardiovascular events: The STRENGTH trial. JAMA. 2020;324(22):2268-2280.
[6] 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版). 2024.
[7] Skulas-Ray AC, et al. Omega-3 fatty acids for the management of hypertriglyceridemia: a science advisory from the American Heart Association. Circulation. 2019;140(12):e673-e691.
[8] Manson JE, et al. (VITAL). Marine n−3 fatty acids and prevention of cardiovascular disease and cancer. N Engl J Med. 2019;380(1):23-32.
[9] The ASCEND Study Collaborative Group. Effects of n-3 fatty acid supplements in diabetes mellitus. N Engl J Med. 2018;379(16):1540-1550.
[10] Suh SW, et al. The effect of n-3 long-chain polyunsaturated fatty acid supplementation on cognition in non-demented older adults: a dose-response meta-analysis of randomized controlled trials. Nutr Rev. 2024;82(6):790-802.
[11] 文部科学省. 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年版. (食品番号10164, さば類/缶詰/水煮).
[12] Neubronner J, et al. Enhanced increase of omega-3 index in response to long-term n-3 fatty acid supplementation from triacylglycerides versus ethyl esters. Eur J Clin Nutr. 2011;65(2):247-254.
[13] Lawson LD, Hughes BG. Absorption of eicosapentaenoic acid and docosahexaenoic acid from fish oil triacylglycerols or fish oil ethyl esters co-ingested with a high-fat meal. Biochem Biophys Res Commun. 1988;156(2):960-963.
[14] Gencer B, et al. Effect of long-term marine ω-3 fatty acids supplementation on the risk of atrial fibrillation: a meta-analysis of randomized controlled trials. Circulation. 2021;144(25):1981-1990.
[15] Albert CM, et al. (VITAL Rhythm). Effect of marine omega-3 fatty acid supplementation on atrial fibrillation in the VITAL Rhythm study. JAMA. 2021;325(11):1061-1073.
[16] 厚生労働省. 「これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと」(パンフレット).