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NEAT(非運動性熱産生)とは?日常の動きが持つ驚くべき力
体重管理や健康について考えるとき、多くの人はジムでの運動や計画的な身体活動(ウォーキング、ランニングなど)に注目しがちです。しかし、私たちの1日の総エネルギー消費量には、「非運動性熱産生(NEAT: Non-Exercise Activity Thermogenesis)」と呼ばれる、見過ごされがちながらも非常に重要な要素が存在します。この記事では、NEATとは何か、なぜ重要なのか、そして私たちの健康にどう関わっているのかを科学的に解説します。
NEATの解説:日常動作の科学
NEAT(ニート)とは、睡眠、食事、そして意図的な運動(Exercise Activity Thermogenesis, EAT)以外の全ての身体活動によって消費されるエネルギーのことです [3]。
具体的には、以下のような日常のあらゆる活動が含まれます。
- 通勤・通学での歩行
- オフィスでの移動、立ったり座ったり
- キーボードを打つ、マウスを操作する
- 家事(料理、掃除、洗濯)
- 庭仕事
- 買い物
- 姿勢を維持すること
- 会話中の身振り手振り
- 無意識のそわそわとした動き(フィジェティング)
NEATの最大の特徴は、個人間の差が非常に大きいことです。同じような体格や年齢の人々であっても、NEATによるエネルギー消費量には1日あたり最大で2000キロカロリーもの差が生じうることが研究で示されています [3]。
この大きな差は、以下のような要因によって生じます。
- 職業: デスクワーク中心か、立ち仕事や肉体労働か。
- 生活様式: 余暇を座って過ごすか、活動的に過ごすか。
- 環境: 歩きやすい街か、車移動が中心か。階段利用の頻度など。
- 遺伝的・生物学的要因: 無意識の動き(フィジェティング)の傾向など、個人に固有の性質。
NEATは、意図的な運動(EAT)と異なり、日々の生活の中に溶け込んでいるため、そのエネルギー消費量を二重標識水法(DLW法)や加速度計などを用いても正確に分離・測定するのは容易ではありません [4]。しかし、その測定の難しさにもかかわらず、NEATが1日の総エネルギー消費量に占める割合は大きく、人によっては計画的な運動(EAT)よりもはるかに多くのカロリーを消費している可能性があるのです。
NEATの大きな役割:体重管理に関する研究からの洞察
NEATの個人差は、体重調節や肥満のリスクと密接に関連していることが、多くの研究によって示唆されています。
肥満との関連
肥満者は標準体重者と比較して、NEATレベルが一貫して低い傾向にあることが報告されています。ある画期的な研究では、肥満者は標準体重者よりも1日あたり平均約2時間も多く座っており、もし標準体重者と同じ姿勢配分(立つ・歩く時間)で過ごした場合、NEATによるエネルギー消費量の差が1日あたり約350 kcalにもなると推定されています [2]。これは、約1時間の早歩きに匹敵するエネルギー量です。
体重増加への抵抗性
エネルギーを過剰に摂取(過食:+1000 kcal/日を8週間)した場合の反応を調べた古典的な研究では、体重(体脂肪)が増えにくい人々は、余剰なエネルギーをNEATとして消費する能力が高いことが示されています [1]。この研究では、NEATの変化量が体脂肪蓄積の個人差(最大10倍差)と強い負の相関 (r = -0.77) を示し、NEATが体重増加を防ぐための重要な調整機能であることが示唆されました。
原因か結果か
「低いNEATが肥満の原因なのか、それとも肥満の結果としてNEATが低下するのか」という問いに対しては、NEATの低さが肥満の原因となる可能性が示唆されています。過食研究で見られる体重増加への抵抗性 [1] や、減量後もNEATを含むエネルギー消費が予測より低いままである傾向(適応熱産生)が持続すること [5] などは、NEATレベルがある程度、個人の持続的な特性であり、肥満のなりやすさに関与している可能性を示しています。
これらの研究結果は、NEATが単なる日常活動の副産物ではなく、エネルギーバランスと体重調節において、生物学的に重要な役割を担っていることを示唆しています。
NEATの活用:科学的研究が示唆すること
NEATに関する科学的知見は、私たちの健康的な生活にどのように活かせるでしょうか?
NEATの重要性を認識する
まず、ジムでの運動だけでなく、日常のあらゆる「動き」がエネルギー消費に貢献していることを理解することが重要です。
座りがちな時間を減らす
現代生活は座っている時間が長くなりがちです。意識的に立ち上がる、歩き回る機会を増やすことが、NEATを高める第一歩となります。(例:デスクワーク中に時々立つ、エレベーターの代わりに階段を使う、電話中に歩く、短い距離は歩く)。
環境を整える
可能であれば、スタンディングデスクを導入したり、休憩時間に散歩を取り入れたりするなど、活動を促す環境を作ることも有効です。
小さな積み重ねを意識する
NEATは日々の小さな活動の積み重ねです。一つ一つの活動は小さくても、合計すれば大きなエネルギー消費につながる可能性があります。
ただし、注意点もあります。意図的にNEATを高めようとする努力(例:意識してそわそわ動く)が、生来的にNEATが高い人と同じ効果をもたらすかはまだ不明確な点もあります。また、NEATを高める能力には個人差があることも認識しておく必要があります。さらに近年では、身体活動を増やしても1日の総エネルギー消費量(TEE)が単純に加算的に増え続けるのではなく、あるレベルで頭打ちになる可能性(“エネルギー消費の制約モデル”)も議論されています [6]。
それでも、NEATに注目することは、計画的な運動(EAT)だけに頼るのではなく、日常生活全体を通じて活動量を増やすという、より包括的で持続可能なアプローチを促します。特に、激しい運動が苦手な人や続けられない人にとっては、NEATを高める工夫が、健康維持のための重要な戦略となりえます。
最後に:健康への道のりのためにNEATを理解する
NEATは、私たちの1日のエネルギー消費において、見過ごされがちながらも非常に重要な要素です。個人差は大きいものの、日常のあらゆる身体活動がエネルギー消費に貢献しています。低いNEATは肥満と関連し [2]、高いNEATは体重維持に有利に働く可能性 [1] があります。
質の高い食事や計画的な運動とともに、日常生活の中で意識的に体を動かす機会を増やし、座っている時間を減らすこと(=NEATを高めること)は、エネルギーバランスを改善し、長期的な健康をサポートするための、実践的で効果的なアプローチと言えるでしょう。
主な参考文献
[1] Levine JA, Eberhardt NL, Jensen MD. Role of nonexercise activity thermogenesis in resistance to fat gain in humans. Science. 1999;283(5399):212–214. https://doi.org/10.1126/science.283.5399.212.
[2] Levine JA, Lanningham-Foster LM, McCrady SK, Krizan AC, Olson LR, Kane PH, et al. Interindividual variation in posture allocation: possible role in human obesity. Science. 2005;307(5709):584–586. https://doi.org/10.1126/science.1106561.
[3] Levine JA. Nonexercise activity thermogenesis—liberating the life-force. Journal of Internal Medicine. 2007;262(3):273–287. https://doi.org/10.1111/j.1365-2796.2007.01842.x.
[4] Plasqui G, Westerterp KR. Physical activity assessment with accelerometers: an evaluation against doubly labeled water. Obesity (Silver Spring). 2007;15(10):2371–2379. https://doi.org/10.1038/oby.2007.281.
[5] Rosenbaum M, Hirsch J, Gallagher DA, Leibel RL. Long-term persistence of adaptive thermogenesis in subjects who have maintained a reduced body weight. American Journal of Clinical Nutrition. 2008;88(4):906–912. https://doi.org/10.1093/ajcn/88.4.906.
[6] Pontzer H, Durazo-Arvizu R, Dugas LR, Plange-Rhule J, Bovet P, Forrester TE, et al. Constrained total energy expenditure and metabolic adaptation to physical activity in adult humans. Current Biology. 2016;26(3):410–417. https://doi.org/10.1016/j.cub.2015.12.046.

