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女性必見!そのダイエット、骨がスカスカに? 忍び寄る「エネルギー不足」の危険なサイン

「ダイエットしたいけど、健康も気になる…」

そんな女性は多いのではないでしょうか?

もし、良かれと思って始めた食事制限や運動で、「月経(生理)が遅れがちになった」「なんだか常に疲れやすい」と感じているなら、注意が必要です。

実は、その不調の裏には「利用可能エネルギー不足(LEA)」が隠れているかもしれません。

これは、食事から摂るエネルギーが、運動や生命維持に必要なエネルギーを下回っている状態のこと。身体が「省エネモード」に入り、まず生殖機能(月経)や骨の再構築といった「後回しにできる機能」を止めてしまうのです。

この状態が続くと、気づかないうちに骨密度が低下し、将来の骨粗鬆症リスクが急上昇する可能性があります。

もともとこの問題は、過酷なトレーニングを積む「女性アスリートの三主徴」や「REDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)」[1, 2]として研究されてきました。

しかし、本質は「アスリートかどうか」ではなく「エネルギーが足りているか」です [8]。

つまり、厳しい食事制限(ダイエット)を行う一般の女性にこそ、深く関係する健康リスクなのです。

この記事では、この「利用可能エネルギー不足」がなぜ起こるのか、身体(特に月経と骨)にどんなリスクをもたらすのか、そして健康的な美しさを守るために何ができるかを、最新の科学的知見に基づき解説します。

この記事を読むことで、あなたは以下のことが理解できます。

  • なぜダイエットで月経が止まったり、骨が弱くなったりするのか
  • あなたの身体が出している「エネルギー不足」の危険なサイン
  • 健康を守るための予防策と、医療機関を受診すべき目安

「エネルギー不足」が引き起こす健康リスク

ダイエットや運動において最も重要なのは、エネルギーのバランスです。

「利用可能エネルギー不足(LEA: Low Energy Availability)」とは、食事から摂取するエネルギーから運動で消費するエネルギーを引いた値(=生命維持に使えるエネルギー)が、必要量を下回っている状態を指します [7]。

身体は、このLEAの状態が続くと、生命維持を最優先します。その結果、生殖機能(月経)や骨の再構築といった「緊急性の低い」機能へのエネルギー供給を制限・停止してしまいます。

このエネルギー不足が引き金となり、月経異常や骨の健康低下だけでなく、免疫、代謝、心血管系、精神面など、健康に関する広範な問題を引き起こすことが分かっています [1, 6]。

サイン1:月経(生理)が止まる・遅れる(月経機能障害)

LEAによってまず影響を受けるのが、女性ホルモンの分泌を司る脳の視床下部です [3]。

エネルギー不足のストレスによりホルモン分泌が抑制され、月経周期が乱れます。

これには、月経周期が35日を超える「希発月経」や、月経が停止する「続発性無月経」が含まれます。続発性無月経は、以前の周期が規則的だった人は3ヶ月以上、不規則だった人は6ヶ月以上の月経停止をもって判断されます [3]。

月経異常(特に無月経)の状態が続くと、以下のようなリスクがあります。

  • 骨密度の低下: 女性ホルモン(エストロゲン)には骨の健康を維持する重要な働きがあります。その分泌が低下することは、骨密度低下の最大のリスクとなります。
  • 不妊症: 排卵が抑制されるため、妊娠しにくくなります。
  • 更年期障害のような症状: ほてり、発汗、イライラなど、閉経後に似た症状が現れることがあります。
  • 心血管系への影響: 脂質プロファイルの悪化や血管内皮機能の低下が報告されており、将来的な心血管疾患のリスクを高める可能性が指摘されています [6]。

サイン2:骨の健康が損なわれる(低骨密度)

「月経が止まるくらい、問題ない」と考えてはいけません。月経の停止は、骨の健康が急速に失われているサインでもあります。

若年女性や閉経前女性の場合、骨の健康状態は骨密度(BMD)測定によって評価されます。

この年代では、高齢者のようなTスコア(若年成人平均との比較)ではなく、Zスコア(同年代・同性との比較)が用いられます [4]。

Zスコアが-2.0以下の場合、「年齢相応より低い骨密度」と評価されます。閉経前女性において、BMD測定値だけで「骨粗鬆症」と診断することは適切ではなく、「低骨密度」または「骨の健康低下」と表現するのが一般的です [4]。

骨密度が低下すると、以下のようなリスクがあります。

  • 疲労骨折: 通常では問題にならないようなランニングやジャンプなどの負荷によって、骨に微細なヒビが入ったり、骨折したりするリスクが高まります。
  • 将来の骨粗鬆症: 若年期に達成すべき最大の骨量(ピークボーンマス)が低いまま加齢すると、閉経後や高齢期に骨粗鬆症を発症するリスクが著しく高まります。
  • 腰痛や背中の痛み: 骨の変形や微小骨折により、慢性的な痛みが生じることがあります。

見落とされがちな全身への影響

エネルギー不足は、月経や骨以外にも、全身に様々な不調をもたらします [1, 6]。

  • 疲労感: 常に疲れを感じ、寝ても回復が遅い。
  • 集中力・判断力の低下: 仕事や勉強の効率が低下する。
  • 免疫力の低下: 風邪などの感染症にかかりやすくなる。
  • 消化器系の不調: 便秘や下痢、胃もたれなどが起こりやすい。
  • 精神状態の不安定: イライラしやすくなったり、抑うつ状態になったりする。
  • 代謝の低下: 基礎代謝が低下し、エネルギーを節約する身体になるため、かえって痩せにくくなることもあります。

「エネルギー不足」を防ぐには?(予防と対策)

健康的なダイエットのために、LEA(エネルギー不足)を防ぐ以下の点に注意しましょう。

  • 適切なエネルギー摂取: 自分の運動量や生活強度に見合ったエネルギーをしっかり摂取すること。研究によれば、利用可能エネルギー量(EA)が除脂肪体重1kgあたり30 kcal/日(EA < 30 kcal/kg FFM/day)を下回ると、ホルモンバランスや代謝に異常が生じやすいとされています [7]。
  • バランスの取れた食事: 主食(炭水化物)、主菜(タンパク質)、副菜(ビタミン・ミネラル)を揃えること。特に骨の健康のため、カルシウムビタミンDの摂取が重要です。必要な栄養素の量は国、年齢、性別によって異なりますが、例えば日本の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人女性(18~74歳)のカルシウム推奨量は650mg/日、ビタミンDの目安量は9.0μg/日(360 IU)とされています [11]。
  • 急激な変更を避ける: ダイエットや運動を始める際は、急激に食事を減らしたり、運動量を増やしたりせず、身体を慣らしながら行う。
  • ストレス管理: 過度なストレスはホルモンバランスを崩す一因となります。
  • 十分な睡眠: 睡眠不足はホルモンバランスを乱し、食欲をコントロールするホルモンにも影響します [10]。

危険なサインに気づいたら(セルフチェックと受診の目安)

以下の項目に当てはまるものが多い場合は、LEAのリスクが高い可能性があります。

  • 月経周期が以前より長くなった、または3ヶ月以上来ていない
  • (運動をしている場合)疲労骨折をしたことがある
  • 疲れやすく、回復が遅いと感じる
  • めまいや立ちくらみがある
  • 食事量や体重のことを常に気にしている
  • イライラしやすくなった
  • 集中力が続かない
  • 風邪をひきやすくなった
  • 冷えやすい

(※これらはあくまで目安です。アスリートのリスク評価には「LEAF-Q」といった妥当化された質問紙が用いられることもあり、一定の点数(例:8点以上)でリスクが高いと判断されますが、これらは診断ではありません [9]。)

医療機関受診の赤旗(レッドフラッグ)

以下のサインが見られる場合は、エネルギー不足が深刻である可能性が疑われるため、早めに(婦人科、整形外科、スポーツドクター、内分泌科などの)医療機関を受診し、相談してください。

  • 月経の停止(規則的だった人:3ヶ月以上、不規則だった人:6ヶ月以上)
  • 月経周期が35日を超える状態が続く(希発月経)
  • 疲労骨折の既往、またはその疑い(運動時に特定の場所が痛むなど)
  • 急激な体重減少
  • 安静時の徐脈(脈拍が50/分未満など)、めまい、立ちくらみ(起立性低血圧)
  • 明らかな摂食障害(過食、拒食、嘔吐など)の疑い

まとめ

過度なダイエットや運動による「エネルギー不足(LEA)」は、アスリートだけでなく、一般女性にも起こりうる深刻な健康問題です。

エネルギー不足は、短期的なパフォーマンス低下だけでなく、月経機能の停止、骨密度の低下、そして将来の不妊や骨粗MBDしょう症リスクの増大に直結します。

健康的な食生活と運動のバランスを心がけ、身体のサイン(特に月経周期の変化や疲労感)を見逃さず、異変を感じたら専門家に相談するようにしましょう。

参考文献

[1] Mountjoy M, Sundgot-Borgen JK, Burke LM, Ackerman KE, Blauwet C, Constantini N, et al. IOC consensus statement on relative energy deficiency in sport (RED-S): 2018 update. Br J Sports Med. 2018;52(11):687–697. https://doi.org/10.1136/bjsports-2018-099193.

[2] Mountjoy M, Ackerman KE, Bailey DM, Burke LM, Constantini N, Hackney AC, et al. 2023 International Olympic Committee’s (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs). Br J Sports Med. 2023;57(17):1073–1097. https://doi.org/10.1136/bjsports-2023-106994. (訂正文:Br J Sports Med. 2024;58(3):e4. https://doi.org/10.1136/bjsports-2023-106994corr1).

[3] Gordon CM, Ackerman KE, Berga SL, Kaplan JR, Mastorakos G, Misra M, et al. Functional hypothalamic amenorrhea: an Endocrine Society clinical practice guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2017;102(5):1413–1439. https://doi.org/10.1210/jc.2017-00131.

[4] Shuhart CR, Yeap SS, Anderson PA, Jankowski LG, Lewiecki EM, Morse LR, et al. Executive Summary of the 2019 ISCD Position Development Conference on Monitoring Treatment, DXA Cross-calibration and Least Significant Change, Spinal Cord Injury, Peri-prosthetic and Orthopedic Bone Health, Transgender Medicine, and Pediatrics. J Clin Densitom. 2019;22(4):453–471. https://doi.org/10.1016/j.jocd.2019.07.001.

[5] Nattiv A, Loucks AB, Manore MM, Sanborn CF, Sundgot-Borgen J, Warren MP, et al. American College of Sports Medicine position stand: the female athlete triad. Med Sci Sports Exerc. 2007;39(10):1867–1882. https://doi.org/10.1249/MSS.0b013e318149587e.

[6] De Souza MJ, Nattiv A, Joy E, Misra M, Williams NI, Mallinson RJ, et al. 2014 Female Athlete Triad Coalition Consensus Statement on Treatment and Return to Play of the Female Athlete Triad. Br J Sports Med. 2014;48(4):289. https://doi.org/10.1136/bjsports-2013-093218.

[7] Loucks AB, Kiens B, Wright HH. Energy availability in athletes. J Sports Sci. 2011;29(Suppl 1):S7–S15. https://doi.org/10.1080/02640414.2011.584942.

[8] Torstveit MK, Sundgot-Borgen J. The female athlete triad exists in both elite athletes and controls. Med Sci Sports Exerc. 2005;37(9):1449–1459. https://doi.org/10.1249/01.MSS.0000177678.73041.38.

[9] Melin AK, Tornberg ÅB, Skouby S, Faber J, Ritz C, Sjödin A, et al. The LEAF questionnaire: a screening tool for the assessment of low energy availability in female athletes. Br J Sports Med. 2014;48(7):540–545. https://doi.org/10.1136/bjsports-2013-093240.

[10] Taheri S, Lin L, Austin D, Young T, Mignot E. Short sleep duration is associated with reduced leptin, elevated ghrelin, and increased body mass index. PLoS Med. 2004;1(3):e62. https://doi.org/10.1371/journal.pmed.0010062.

[11] 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(公表:2024年10月11日、最終更新:2025年3月25日 正誤反映). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html(全文PDFあり).

末岡 啓吾

末岡 啓吾

パーソナルトレーニングジム「PriGym」代表トレーナー。
博士(理学)・NSCA認定トレーナー・パワーリフティング元日本記録保持者。
科学と実践の両軸で、一人ひとりの成長を支えます。