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遺伝子検査でダイエット成功は本当? ― 科学で断罪します

結論:「遺伝子×ダイエット」をうたう遺伝子検査(体質診断)サービスは買わない。現時点の科学で減量効果の裏づけは乏しく、広告は誤解を生みます。日本の医師会・医学会も規制の必要性を明言しています[1]。

なお、本記事はあくまで「ダイエット」等をうたう消費者向けサービスを対象としており、医師の診断のもとで行われる医療目的の遺伝学的検査(難病診断、がん治療、薬剤応答性など)を批判するものではありません。

まず知ってほしい「公式の警告」

医師会・医学会の共同提言(2024-03-13)

日本医師会と日本医学会は、医療の枠外で行われる遺伝子検査(体質診断)サービスに対し、厚生労働省による適切な規制の検討を求めています[1]。

厚生労働省の計画案(2025)

厚生労働省「ゲノム医療施策に関する基本的な計画(案)」は、医療外の遺伝子検査(体質診断)サービスについて、関係法令の解釈明確化と、質・信頼性確保の方針を示しています[7]。

消費者庁の運用(景品表示法)

痩身など断定的・誇大な表示は措置命令の対象になり得ることが示されており、健康関連の不当表示に対する対応事例が公表されています[8]。

まとめ(第三者評価)

景品表示法の運用実態と公的見解を踏まえた第三者評価として、現時点では当該サービスの購入は妥当ではなく、購入すべきではありません[1][7][8]。

科学の要点:遺伝子で「どの食事が痩せるか」は決められない

主要エビデンス1:DIETFITS(大規模RCT=信頼性の高い臨床試験)

DIETFITS試験(JAMA 2018)では、12か月の体重変化は低脂肪 −5.3kg、低炭水化物 −6.0kgで群差は0.7kg(95% CI −0.2〜1.6)。遺伝子型と食事の相互作用は認められず、遺伝子で「自分向きの食事法」を選べるとは言えませんでした[2]。

主要エビデンス2:総説(研究を総合評価した論文)

Nutrients の総説(2020, 2024)は、市販の「栄養×遺伝子」テストの臨床的有用性が不足しており、減量処方に使う段階ではないと結論づけています[3][4]。

主要エビデンス3:Food4Me関連

AJCN の報告(2017)は、遺伝情報の開示で食行動が改善する可能性を示しつつも、体重減少への上乗せ効果は小さいか不確かとしています[9]。

一言でいうと

「あなたの遺伝子だからこの食事で痩せる」という主張は、現時点の科学では支持されていません[2][3][4][9]。

よくある誤解

「炭水化物で太りやすい遺伝子だから糖質ゼロ」

極端な制限は栄養バランスを崩し、リバウンドの種になります。まずは総エネルギー管理と継続可能性が最優先です[2][3][4]。

「体質は変わらない」

遺伝子は固定でも、体組成・代謝・行動は生活習慣で変えられます[3][4]。

「遺伝子がわかれば近道」

市販キットは検査箇所が限られ、環境要因の影響が遥かに大きいのが実情です。近道どころか寄り道になりがちです[3][4][9]。

プライバシーは“あなた一人の問題ではない”

遺伝子情報は、提出者本人だけでなく家族や将来の子にも影響が及ぶ性質を持ちます。提供前に、影響範囲と取り返しのつかなさを具体的にイメージしておきましょう。

家族も巻き込む情報である

遺伝子は血縁で部分的に共有されています。あなたのデータから、親・きょうだい・子どもの特性が推測される可能性があります。家族の同意や説明の要否も含め、倫理的配慮が必要です[6]。

「匿名化」に過信は禁物

統計化・匿名化されていても、他のデータとの突合で再特定されるリスクは残ります。データ提供先がどのような方法で匿名化し、再特定を防ぐ管理をしているかを確認しましょう[6]。

二次利用・海外移転のリスク

研究への転用、提携企業への提供、AI学習、マーケティングなど、当初の目的を超えた利用が契約に含まれる場合があります。データが海外サーバーに移されると、保護水準や監督が異なる法域の影響を受けます[6][7]。

消せない/消しきれない可能性

退会や削除依頼をしても、バックアップや共同研究先に残存することがあります。保存期間、第三者提供、完全削除の可否と手順を、書面で確認しておくのが安全です[6][7]。

差別・不利益の懸念

遺伝・体質情報は、保険の条件、採用・配置、ローン・賃貸などで不利な扱いにつながり得るデリケートな情報です。日本の個人情報保護法では「要配慮個人情報」として、取得には原則同意が必要、越境移転には追加要件が課され、同意なしの第三者提供(オプトアウト提供)は認められていません[5]。それでも一度広まった情報は元に戻せないため、「渡さなくて済むなら渡さない」という判断も合理的です。

注意点(提供前に最低限チェック)

同意書とプライバシーポリシーで、保存期間、第三者提供の範囲、研究・AI・マーケティングへの二次利用、海外移転の有無と法的根拠、撤回後の削除可否と手続を必ず確認してください。唾液などの検体について再同意の扱い、保険・雇用で不利益が生じ得る点の説明も重要です[5][6][7]。

広告の読み方(最低限の見分け方)

断定・誇大表現に注意

「体質が変わる」「必ず痩せる」などの断定は、景品表示法の射程に入ります。実際に措置命令の事例があります[8]。

「遺伝子で食事が決まる」という主張

主要RCTで否定されており、科学的に未確立です[2]。

「安い・早い・簡単」という誘い文句

個人情報の扱い(同意、保存期間、二次利用、海外移転)を特に確認すべきサインです[5][6][7]。

科学が示す王道

小さなエネルギー赤字を継続する

週平均で「摂取<消費」を保ちます。嗜好や生活に合う方法(低脂肪でも低炭水化物でも)を選べば十分です[2][3][4]。

食事の質を上げる

毎食にたんぱく質と食物繊維を含め、砂糖飲料・超加工食品を減らします[2][3][4]。

動く体を作る

筋力トレーニングと日常活動(階段・歩数)に、無理のない有酸素運動を組み合わせます[3][4]。

続ける仕組みを作る

体重・食事・活動の簡易記録、十分な睡眠、誘惑を家に置かない等の環境設計で、行動を支えます[3][4]。

まとめ

遺伝子検査に頼るより、これらの基本が平均して効果と再現性に優れます[2][3][4]。

遺伝子検査ダイエットに関するよくある質問(FAQ)

本当に「遺伝子検査商品」は買わないほうがいいの?

はい。主要な臨床試験と総説では、遺伝子で「痩せやすい食事法」を選べるという根拠は足りていません。公的機関も誇大表示に警戒しており、第三者評価(景品表示法の運用と公的見解を踏まえた観点)として、現時点での購入は妥当ではありません[1][2][3][4][7][8]。なお、本記事の対象はダイエット等をうたう消費者向けサービスであり、医師の診断のもとで行う医療目的の遺伝学的検査は含みません。

遺伝子で「自分に合う食事法」はわかるの?

いいえ。大規模RCT(信頼性の高い臨床試験)であるDIETFITSでは、低脂肪食と低炭水化物食の体重減少に大きな差は見られず、遺伝子型との相互作用も確認されませんでした。研究をまとめた論文でも、体重減少のために遺伝子情報を使う段階にはないとされています。また、個別化の助言で行動が少し良くなっても、体重面での上乗せ効果は小さいか不確かです[2][3][4][9]。

遺伝情報を提供しても大丈夫?

慎重に判断してください。遺伝情報はあなたや家族の将来に影響し得るデリケートな情報で、いったん共有すると完全に取り戻せない場合があります。契約に研究利用や提携先への提供、海外のサーバーへの移転が含まれることもあります。日本の個人情報保護法でも厳格な取り扱いが求められます。保存期間、第三者提供、海外移転、削除可否を文書で確認し、それでも迷うなら「渡さなくて済むなら渡さない」という選択が安全です[5][6][7]。

遺伝子検査ではなく、何をすればいい?

科学が示す王道は、週平均で摂取エネルギーを消費より少し下回らせることを続けることです。好みに合う食事法(低脂肪でも低炭水化物でも可)を選び、たんぱく質と食物繊維を増やし、砂糖飲料や超加工食品を減らします。筋力トレーニングと日常活動に無理のない有酸素運動を加え、記録・睡眠・環境づくりで継続を支えます。これらは、遺伝子検査に頼るより平均して効果と再現性が高い方法です[2][3][4]。

この記事の立場(再確認)

本記事は「遺伝子検査は参考情報として有用」という中立的ポジションを取りません。ダイエット目的の遺伝子検査(体質診断)サービスは、科学・制度の両面から推奨できないと明確にします[1][2][3][4][7]。


参考・根拠

[1] 日本医師会; 日本医学会. 「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」に関する提言について. 2024-03-13. https://jams.med.or.jp/news/065.pdf

[2] Gardner CD, Trepanowski JF, Del Gobbo LC, Hauser ME, Rigdon J, Ioannidis JPA, et al. Effect of Low-Fat vs Low-Carbohydrate Diet on 12-Month Weight Loss in Overweight Adults and the Association With Genotype Pattern or Insulin Secretion: The DIETFITS Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018;319(7):667–679. https://doi.org/10.1001/jama.2018.0245

[3] Mullins VA, Bresette W, Johnstone L, Hallmark B, Chilton FH. Genomics in Personalized Nutrition: Can You “Eat for Your Genes”? Nutrients. 2020;12(10):3118. https://doi.org/10.3390/nu12103118

[4] Duarte MKRN, Leite-Lais L, Agnez-Lima LF, Maciel BLL, Morais AHdA. Obesity and Nutrigenetics Testing: New Insights. Nutrients. 2024;16(5):607. https://doi.org/10.3390/nu16050607

[5] 個人情報保護委員会. 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)〔令和7年6月一部改正〕. 2025. https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal_guidelines/guidelines/tsusokuhen/

[6] 経済産業省. 遺伝子検査ビジネス実施事業者の遵守事項. https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/bio/zyunshu.pdf

[7] 厚生労働省. ゲノム医療施策に関する基本的な計画(案). 2025-05-02. https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001488450.pdf

[8] 消費者庁. 令和5年度における景品表示法等の運用状況及び表示等の適正化への取組. 2024-06-03. https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_240603_01.pdf

[9] Celis-Morales C, Marsaux CF, Livingstone KM, Navas-Carretero S, San-Cristobal R, Fallaize R, et al. Can genetic-based advice help you lose weight? Findings from the Food4Me European randomized controlled trial. Am J Clin Nutr. 2017;105(5):1204–1213. https://doi.org/10.3945/ajcn.116.145680

末岡 啓吾

末岡 啓吾

パーソナルトレーニングジム「PriGym」代表トレーナー。
博士(理学)・NSCA認定トレーナー・パワーリフティング元日本記録保持者。
科学と実践の両軸で、一人ひとりの成長を支えます。