ホーム > ダイエット情報局 > 不妊リスクを高めるダイエットとは?正しい方法を知って妊娠力を守ろう

不妊リスクを高めるダイエットとは?正しい方法を知って妊娠力を守ろう

「ダイエットしたいけど、将来妊娠できるか心配…」「妊活中だけど、体重はどれくらいがベストなの?」

そう思っている方はいませんか?無理なダイエットは、生理不順や無月経を引き起こし、不妊のリスクを高める可能性があります。しかし、どのラインを超えると危険なのか、どうすれば安全なのか、不安に思うことも多いでしょう。

この記事では、「不妊」と「妊活」の観点に絞って、ダイエットと妊娠力の関係性について医学的な根拠に基づいて解説します。正しい知識を身につけることで、健康的に痩せながら、大切な将来の妊娠力を守りましょう。

ダイエットで不妊になる?生理不順・無月経との関係

ダイエット自体が悪いわけではありません。しかし、「過度な」ダイエットは女性の体に大きな影響を及ぼし、不妊の原因となることがあります。

1. 女性ホルモンの乱れ(視床下部性無月経)

最も大きな問題は、極端な食事制限による「エネルギー利用可能量(Energy Availability: EA)」の不足です。

EAとは、「食事で摂るエネルギー」から「運動で使うエネルギー」を引いた、生命維持や生殖機能のために体に残るエネルギーのことです。研究により、このEAが一定の閾値を下回ると、脳(視床下部)は生命維持を最優先し、生殖機能(妊娠・出産)に関わるホルモンの分泌を抑制してしまうことが示されています。

特に、除脂肪体重1kgあたり1日30kcal(≈30 kcal/kg FFM/日)付近が、ホルモン動態に影響が出始める一つの目安として報告されていますが[9]、これには個体差があります。月経や骨の健康を保護するためには30~45 kcal/kg FFM/日の範囲を“十分域”とする報告もあります。[1, 11]

これが「視床下部性無月経(ストレスやエネルギー不足で起こる生理停止)」と呼ばれる状態で、排卵が止まり、月経異常が引き起こされます。

  • 無月経:順調だった月経が3ヶ月以上(元々不規則だった場合は6ヶ月以上)来ない状態。[1]
  • 生理不順(月経不順):正常な月経周期(24日~38日)から大きく外れ、39日以上になったり極端に短くなったりする状態。[2]

これらは体が発する「妊娠準備ができていません」というサインであり、不妊の直接的な原因となります。

2. 低体重(痩せすぎ)のリスク

BMI(ボディマス指数)が18.5未満の「低体重」や、体脂肪率が極端に低い状態も、不妊のリスクを高めます。妊娠・出産にはある程度の体脂肪が必要であり、体脂肪が少なすぎると女性ホルモンの分泌が減少し、排卵障害が起こりやすくなります。[3]

3. 栄養不足と排卵障害・月経異常

極端なカロリー制限や「〇〇だけダイエット」のような偏った食事は、排卵障害や月経異常のリスクを高める可能性があります。卵子の発育や成熟、さらにその後の着床プロセスには、タンパク質、ビタミン、ミネラルなど多様な栄養素が不可欠です。これらの栄養素が慢性的に不足すると、ホルモンバランスの乱れを介して、結果的に受精率や着床率に影響を及ぼす可能性が示唆されています。[4]

不妊リスクを高める「危険なダイエット」の特徴

妊娠を希望する女性は、以下の特徴を持つダイエットに注意が必要です。

  • 基礎代謝(生命維持に必要な最低限のカロリー)さえ下回るような食事制限
  • エネルギー利用可能量(EA)が、ホルモンバランスに影響を与え始める目安(約 30 kcal/kg FFM/日)を下回る状態 [9]。(※これは最低限の目安であり、十分な機能維持には30~45 kcal/kg FFM/日程度が必要という報告もあります[11])
  • 特定の食品のみ、あるいは特定の栄養素(糖質や脂質など)を完全にカットする
  • 急激なダイエット(例:1ヶ月に体重の5%以上を減らすようなペース。一般的には週に0.5~1%程度が安全な目安とされます)
  • 常に空腹感や「食べてはいけない」という強迫観念を抱えている

チェックリスト:そのダイエット、大丈夫?

ご自身の状況を客観的にチェックしてみましょう。

危険なダイエット(NG)健康的なダイエット(OK)
1日の摂取カロリーが基礎代謝以下基礎代謝+活動量に見合うカロリー
1ヶ月に体重の5%以上など、急激な減少1ヶ月に体重の2〜4%程度(週0.5〜1%)の緩やかな減少
生理が止まった・周期が39日以上になった生理周期は安定的(24〜38日)[2]
炭水化物や脂質を「悪」として排除主食・主菜・副菜を揃えてバランス良く食べる
常に疲労感があり、イライラする体調が良く、前向きな気持ちで続けられる

ご注意:「生理停止」は「骨の危険信号」でもあります過度なダイエットによるエネルギー不足で生理が止まると、妊娠しにくくなるだけでなく、気づかないうちに骨密度が低下し、将来の骨粗鬆症リスクが高まることが知られています。これは「RED-S(相対的エネルギー不足:運動量に対して食事が足りない状態)」と呼ばれる深刻な状態です。元々はアスリートの研究で確立された概念ですが[10]、運動量に見合う食事を摂っていない場合、ダイエット中の一般女性にも同様のリスクが起こり得ます。

骨への影響については、こちらの記事で詳しく解説しています。

妊娠力を守る「安全なダイエット」の進め方

健康的な美しさと妊娠力を両立させるためには、以下のポイントを意識しましょう。

  • バランスの取れた食事
    主食(エネルギー源)、主菜(タンパク質)、副菜(ビタミン・ミネラル)を揃え、栄養バランスを意識しましょう。日本の「食事摂取基準(2025年版)」などを参考に、極端な制限は避けます。[5]
  • 適度な運動
    激しい運動ではなく、ウォーキングやヨガ、軽い筋トレなど、WHO(世界保健機関)なども推奨する「週150分程度の中強度の運動」[12]を目安に、無理なく継続できるものを選びましょう。
  • ストレスを溜めない生活習慣
    十分な睡眠、リラックスできる時間、趣味を楽しむなど、心身の健康を第一に考えましょう。[6]
  • 専門家への相談
    生理が3ヶ月以上来ない、または周期が著しく不安定な場合は、まず婦人科を受診してください。 食事内容が不安な場合は、管理栄養士に相談することも有効です。[3]

※「太りすぎ」と不妊(PCOSの場合)「痩せすぎ」だけでなく、「太りすぎ(肥満)」も不妊のリスクとなります。特にPCOS(多嚢胞性卵巣症候群:排卵しづらくなる体質の一つ)と診断され、かつ肥満(BMI 25以上)がある場合は、適切な体重減少(例:体重の5~10%程度)が排卵機能の改善や妊娠率の向上につながることが、最新の2023年国際ガイドラインでも推奨されています。[7]この場合も自己判断せず、医師や管理栄養士の指導のもとで安全に進めることが重要です。

今日からできる3ステップ

  1. まず「記録」する:今のBMI(体重÷身長(m)÷身長(m))と、生理周期をアプリや手帳にメモしましょう。
  2. まず「1食」変える:3食のうち1食だけでも、「主食・主菜・副菜」の3点セットを意識してみましょう。
  3. まず「10分」動く:エレベーターを階段にする、一駅分歩くなど、日常生活で10分の運動をプラスしてみましょう。

妊活中はどこまで痩せていい?目安と注意点

妊活中は、特に慎重な体重管理が求められます。

急激な体重減少は避ける

妊娠を希望する場合、急激な体重減少はホルモンバランスを崩すため禁物です。もし減量が必要な場合でも、週に0.5~1%(月に2~4%)程度のごく緩やかなペースに留めましょう。

葉酸など、積極的に摂取したい栄養素

厚生労働省は、妊娠を計画している女性に対し、胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減するため、妊娠の1ヶ月以上前から通常の食事に加えて1日400μgの葉酸をサプリメントなどから摂取することを推奨しています。[8]

BMIを正常範囲に保つ

妊活中は、BMIを正常範囲(18.5~24.9)に保つことが理想です。低体重(BMI 18.5未満)も肥満(BMI 25以上)も、排卵障害や妊娠合併症のリスクを高めることが最新の米国生殖医学会(ASRM)2021年改訂版でも指摘されています。[3]

BMIの目安

BMI判定妊娠への影響(目安)
18.5未満低体重(やせ)妊娠力が低下しやすいゾーン
18.5~24.9普通体重妊娠に適したゾーン
25.0以上肥満PCOS悪化や妊娠合併症リスクが上がるゾーン

まとめ

この記事では、「不妊」と「妊活」の観点からダイエットとの関係性を解説しました。

無理なダイエットによる「エネルギー不足」は、女性ホルモンのバランスを崩し、不妊のリスクを高める可能性があります。もしこの記事を読んでドキッとしたとしても、それはご自身の体を守るための“気づけたサイン”です。ご自身を責めないでください。まずはご自身の体が出しているサイン(月経周期や体調)に耳を傾けることが第一歩です。

健康的に痩せながら妊娠力を守るためには、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレスのない生活を心がけましょう。

もし、月経不順や妊活中の体重管理について不安や疑問がある場合は、決して一人で抱え込まず、婦人科医や管理栄養士などの専門家へ相談することをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

ダイエットで生理が止まったら、将来妊娠できなくなりますか?

すぐに「妊娠できなくなる」わけではありません。多くの場合、エネルギー不足が原因の機能性視床下部性無月経であり、食事内容を見直し、適切な体重とエネルギーバランスに戻すことで、月経と排卵機能は回復する可能性が高いです。[1] ただし、長期間放置すると回復が難しくなることもあるため、3ヶ月以上無月経の場合は早めに婦人科を受診してください。

妊活中ですが、何kgくらいまでならダイエットしても大丈夫ですか?

まずはご自身のBMIを確認してください。BMIが18.5~24.9の正常範囲内であれば、原則として妊活中の積極的な減量は推奨されません。もしBMIが25以上の肥満に該当し、医師から減量を勧められた場合は(特にPCOSなどがある場合[7])、1ヶ月に体重の2~4%程度(週0.5~1%)のごく緩やかなペースで、栄養バランスを保ちながら行う必要があります。

BMIが18.5を下回ると、本当に不妊リスクは高くなりますか?

はい、高くなります。BMI 18.5未満の「低体重」は、エネルギー不足の指標の一つであり、排卵障害や無月経のリスクが有意に高まることがわかっています。[3] 妊娠力を守るためには、まずBMI 18.5以上を目指すことが推奨されます。

どんな状態なら婦人科を受診すべきですか?

以下のいずれかに当てはまる場合は、ダイエットの方法を見直すとともに、婦人科への受診を強く推奨します。

  • 順調だった生理が3ヶ月以上(元々不順なら6ヶ月以上)来ていない
  • 月経周期が24日未満、または39日以上になった
  • ダイエットを始めてから経血量が極端に減った
  • BMIが18.5を下回っても体重減少が止まらない、または体重への不安が強い

「食べるのが怖い」「太るのが怖い」と感じることが増えています。これは普通ですか?

「普通」ではありませんが、過度なダイエットをしている方には少なくない悩みです。それは体がエネルギー不足を感じているサインかもしれませんし、摂食障害の入り口である可能性も否定できません。食事や体重への不安が生活の中心になっていると感じたら、一人で抱え込まず、心療内科や精神科、または摂食障害の専門家へ相談することを強く推奨します。(※セルフチェックのツールとしてSCOFF質問票などが知られていますが、診断は専門家が行います。)

運動をするとスッキリする一方で、生理が不安定になってきました。運動量は減らした方がいいですか?

可能性は高いです。運動自体は健康に良いことですが、食事からのエネルギー摂取が運動量に見合っていない場合(エネルギー不足)、生理が不安定になることがあります。[10] まずは運動量を少し減らすか、運動前後の食事(特に炭水化物)をしっかり摂るように見直してみてください。それでも改善しない場合は、婦人科やスポーツドクターに相談しましょう。

参考文献

[1] Gordon CM, Ackerman KE, Berga SL, Kaplan JR, Mastorakos G, Misra M, et al. Functional hypothalamic amenorrhea: An Endocrine Society clinical practice guideline. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2017;102(5):1413–1439. https://doi.org/10.1210/jc.2017-00131

[2] Munro MG, Critchley HOD, Fraser IS; FIGO Menstrual Disorders Committee. The two FIGO systems for normal and abnormal uterine bleeding symptoms and classification of causes of abnormal uterine bleeding in the reproductive years: 2018 revisions. International Journal of Gynecology & Obstetrics. 2018;143(3):393–408. https://doi.org/10.1002/ijgo.12666

[3] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Obesity and reproduction: a committee opinion. Fertility and Sterility. 2021;116(5):1266–1285. https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2021.08.018

[4] Chavarro JE, Rich-Edwards JW, Rosner BA, Willett WC. Diet and lifestyle in the prevention of ovulatory disorder infertility. Obstetrics & Gynecology. 2007;110(5):1050–1058. https://doi.org/10.1097/01.AOG.0000287293.25465.e1

[5] 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書. 厚生労働省; 2024年10月11日公表(最終更新 2025年3月25日). Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html

[6] Toufexis D, Rivarola MA, Lara HE, Viau V. Stress and the reproductive axis. Journal of Neuroendocrinology. 2014;26(9):573–586. https://doi.org/10.1111/jne.12179

[7] Teede HJ, Tay CT, Laven JJE, Dokras A, Moran LJ, Costello MF, et al. Recommendations from the 2023 International evidence-based guideline for the assessment and management of polycystic ovary syndrome. Fertility and Sterility. 2023;120(4):767–793. https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2023.07.025

[8] 厚生労働省. 葉酸とサプリメント—神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果. e-ヘルスネット; 2021年6月1日更新. Available from: https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-05-002.html

[9] Loucks AB, Thuma JR. Luteinizing hormone pulsatility is disrupted at a threshold of energy availability in regularly menstruating women. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2003;88(1):297–311. https://doi.org/10.1210/jc.2002-020369

[10] Mountjoy M, Ackerman KE, Bailey DM, Burke LM, Constantini N, Hackney AC, et al. 2023 International Olympic Committee’s (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs). British Journal of Sports Medicine. 2023;57(17):1073–1097. https://doi.org/10.1136/bjsports-2023-106994

[11] De Souza MJ, Nattiv A, Joy E, Misra M, Williams NI, Mallinson RJ, et al. 2014 Female Athlete Triad Coalition consensus statement on treatment and return to play of the female athlete triad: 1st International Conference held in San Francisco, CA, May 2012, and 2nd International Conference held in Indianapolis, IN, May 2013. Clinical Journal of Sport Medicine. 2014;24(2):96–119. https://doi.org/10.1097/JSM.0000000000000085

[12] World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Geneva: World Health Organization; 2020. Available from: https://www.who.int/publications/i/item/9789240015128

末岡 啓吾

末岡 啓吾

パーソナルトレーニングジム「PriGym」代表トレーナー。
博士(理学)・NSCA認定トレーナー・パワーリフティング元日本記録保持者。
科学と実践の両軸で、一人ひとりの成長を支えます。