ホーム > ダイエット情報局 > リコピン吸収率を高める食べ方!加熱・油・朝の科学的根拠と摂取目安

リコピン吸収率を「効率化」する食べ方:加熱・油・朝の科学的根拠

トマトやスイカに含まれるリコピンを、健康のために意識して摂っている。もしそうなら、その努力をより実りあるものにするために、知っておくべき「効率」の話があります。

実は、リコピンは野菜から摂取しても、そのすべてが体に吸収されるわけではありません。しかし、調理法や食べるタイミングを工夫することで、生体利用率(吸収率)を高められることが、数々の研究で分かっています。

この記事は2025年12月時点の最新情報に基づき、リコピンを「無駄なく、賢く」摂るための具体的な方法と、科学的根拠(エビデンス)の現在地について、誠実に解説します。

30秒でわかる記事まとめ(結論)

  • トマト:加熱調理で吸収効率が高まります。
  • スイカ:生のままでも効率よく吸収されます。
  • 食べ方:油(オリーブオイル等)と一緒に摂ると吸収効率が高まります。
  • 時間:朝の摂取が良い可能性があります。
  • 効果:LDL・血圧ケアなどの健康サポートに。

リコピンの健康効果:科学の「現在地」(LDL・肌・血圧)

リコピンは強力な抗酸化作用を持つ成分として知られていますが、近年の大規模なデータ分析(メタ解析)により、その効果の範囲と限界がより明確になってきました。

1. 悪玉(LDL)コレステロールとHDLへの影響

「トマトでコレステロールが下がる」という話がありますが、科学的な評価は条件によるとされています。

まず、悪玉(LDL)コレステロールへの影響について、多くの研究をまとめた分析では一貫した低下効果は見られませんでした[1]。しかし、「1日25mg以上の摂取」など、条件によっては低下が見られた報告もあります[2]。一方で、善玉(HDL)コレステロールに関しては、数値を増やす働きについて肯定的な報告が見られます[3]

つまり、すべての人に劇的な効果があるわけではありませんが、数値改善のサポート役としては期待できる成分です。

2. 紫外線と肌に対する内側からのサポート

トマトペーストなどを継続的にとることで、紫外線による肌の赤み(紅斑)がやや抑えられたというヒト試験が報告されています[4]

よく「食べる日傘」と表現されますが、注意が必要です。これは日焼け止めの代わりになるほど強力なバリアではありません。あくまで、内側から肌の基礎的な抵抗力を底上げするもの、と捉えるのが正解です。

3. 血圧との関係(主に高血圧の方向け)

血圧に関しても、一般の方すべてに効果があるわけではありません。

最新の分析では、すでに高血圧の傾向がある方において、上の血圧(収縮期血圧)の低下が見られる可能性が報告されています[5][6]。正常な血圧の方が摂取しても、下がりすぎるということは考えにくい成分です。

この章のポイント

  • 医薬品のような劇的な治療効果ではなく、HDLのサポートや高めの血圧ケアなど、穏やかな調整役として期待できる。
  • 「これさえ食べれば治る」という過度な期待は禁物。
  • リコピンはあくまで日々の食事の一部であり、医薬品による治療や生活習慣全体の見直しを置き換えるものではありません。

トマトの吸収効率を高める3つのポイント(加熱・油・朝)

まず、リコピンの王道である「トマト」についてです。トマトの場合、生のままかじるよりも、少し手を加えることで吸収効率(生体利用率)を高めることができます。

ポイント1:加熱調理(構造の変化)

生のトマトに含まれるリコピンの多くは「オールトランス体」という構造をしており、結晶性が高いため、そのままでは体への吸収効率があまり高くありません[7]。しかし、加熱調理を行うことで、リコピンの一部が「シス体」という曲がった構造に変化(異性化)します。このシス体の方が胆汁酸ミセルに取り込まれやすく、体内で利用されやすいことが分かっています[8]。実際、生トマトよりも加熱したトマトペーストを摂取した方が、血中のリコピン濃度が高まったという報告があります[9]

ポイント2:油と一緒に摂る(脂溶性の特性)

リコピンは水に溶けにくく油に溶けやすい「脂溶性」の成分です。過去の研究では、ノンオイルドレッシングでサラダを食べた場合、リコピンの吸収はごくわずかでしたが、十分な量の油を含むドレッシングでは吸収量が大幅に増加しました[10]。特にオリーブオイルを使って加熱調理することは、リコピンの吸収を高めるうえで理にかなった方法です。

ポイント3:朝の摂取(時間栄養学の可能性)

「いつ食べるか」については、まだ研究段階ではありますが、興味深い報告があります。ラットや小規模なヒト試験において、夕方よりも「朝」にトマトジュースを摂取した場合の方が、血中のリコピン濃度が高くなる傾向が示されています[11]。朝の絶食明けのタイミングや、胆汁酸分泌のリズムなどが関与していると考えられています。ただし、まだ研究数は少なく確立した定説とは言えないため、「習慣化するなら朝にしてみるのも一案」くらいの位置づけです。

この章のポイント

  • 生のトマトより加熱調理の方が、吸収されやすい構造(シス体)が増える。
  • 脂溶性のため、油と一緒に摂ることで吸収効率が大きく向上する。
  • 朝の摂取が効率的である可能性が、一部の研究で示唆されている。

生トマト・ジュース・ペーストの比較

リコピンを効率よく摂る手段として、加工品は非常に優秀です。製造工程での加熱処理により、すでに吸収されやすい状態になっているからです。

食品の種類リコピン吸収効率手軽さおすすめの活用法特記事項
トマトペースト◎ 非常に高い◯ 調理が必要カレー、スープ、パスタ重あたりの含有量が多く、加熱済みで効率的。
トマトジュース◯ 高い◎ 飲むだけオリーブオイルを垂らして温める食塩無添加を選ぶことが健康の基本。
生トマト△ 比較的低い◯ そのまま油入りドレッシングをかける酵素やビタミンC摂取には向いている。

この章のポイント

  • 効率重視なら、加熱・濃縮されたトマトペーストやジュースが便利。
  • ジュースや加工品を選ぶ際は、塩分の過剰摂取にならないよう「食塩無添加」を選ぶ。

【番外編】スイカのリコピンと賢い食べ方

「トマトの酸味が苦手」「加熱調理が面倒」という方には、スイカも非常に有力な選択肢となります。

特徴1:生でも吸収されやすい

スイカのリコピン含有量は、品種や熟度にもよりますが、代表的な分析ではトマトと同等かそれ以上(約4.5mg/100g程度)と報告されています[12]。さらに特筆すべきは、スイカはトマトに比べて細胞組織が柔らかく、加熱しなくても咀嚼などでリコピンが放出されやすい点です。実際に、非加熱のスイカジュースを摂取した試験でも、血中リコピン濃度の上昇が確認されています[13]。トマトと比べて「必ず加熱が必要」というわけではなく、生のままでもリコピンを十分に摂りやすいのが強みです。

特徴2:「シトルリン」で巡りをサポート

スイカには、トマトにはほとんど含まれないアミノ酸「シトルリン」が含まれています。シトルリンは体内でアルギニンに変換され、血管を広げる一酸化窒素(NO)の産生を助ける働きが報告されています[14]。血圧に関する多くの研究ではサプリメントレベルの量が用いられていますが、食事からの摂取も血管の健康をサポートする一助となると考えられます。

賢い食べ方のコツスイカは脂質をほとんど含みません。リコピンの吸収を高めるためには、油分を含む食事のデザートとして食べるのが正解です。食事の脂質が吸収を助けてくれます。

あわせて読みたい

※シトルリンの効果や、皮まで活用するレシピなど、スイカについてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

この章のポイント

  • スイカはトマトと並ぶ優秀なリコピン源であり、生でも吸収されやすい。
  • 「シトルリン」も同時に摂れるのがトマトとの違い。
  • 脂溶性の性質を活かすため、油を含む食事の後に食べるのがベスト。

1日の摂取目安量と安全性(副作用)

1日の摂取目安量

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」において、リコピンの推奨量は設定されていません[15]。一方で、日本の機能性表示食品では、HDLコレステロールや血圧に関する研究をもとに、1日あたり15mg〜20mg程度(トマトジュース約200ml、Lサイズトマト約2個分)を機能性関与成分量として設定している製品が多く、「研究でよく使われる量の一つの目安」として参考にできます。

副作用と薬の飲み合わせ

通常の食品として摂取する範囲であれば、重篤な副作用の心配はほとんどありません。サプリメントなどで長期間にわたり過剰に摂取し続けると、皮膚が黄色くなる「柑皮症(リコピン血症)」になることがありますが、摂取を中止すれば元に戻ります。

注意点:

  • 抗凝固薬(ワルファリン等)や降圧薬、脂質異常症治療薬を服用中の方:リコピンのサプリメントを高用量で摂取する場合、薬の作用に影響を与える可能性がゼロではありません。自己判断でサプリを増量したり、薬を減らしたりせず、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。
  • 腎臓疾患の方:トマトやスイカにはカリウムが含まれています。カリウム制限がある方は、摂取量について必ず主治医の指示に従ってください。

コラム:夜トマトダイエットは本当に痩せる?

「トマトを食べるだけで痩せる」という情報を見かけることがありますが、現時点で、運動も食事制限もせずにトマトを食べるだけで劇的に体重が減るという確実な科学的根拠はありません。

ダイエット効果を感じた人がいるとすれば、それはリコピンの直接効果というよりも、夕食前にトマトでお腹を満たすことで、結果的に高カロリーなご飯やおかずの量が減った(カロリーの置き換え)ことによる影響が大きいと考えられます。トマトは低カロリー(100gあたり約20kcal)[16]で健康的な食材ですが、「魔法の痩せ薬」ではないと理解しておくことが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q. リコピンを一番効率よく摂れるのはどれですか?

トマトなら「加熱・濃縮」されたトマトペーストやジュース[9]、果物なら「生」でも吸収されやすいスイカ[13]が効率的です。どちらも油を含む食事と一緒に摂ることで、より効率的な吸収が期待できます。

Q. 朝・昼・夜、いつ摂るのがベストですか?

一部の小規模な研究では「朝」が有利であると示唆されています[11]。ただ、まだ確立した結論ではなく、最も大切なのは継続することです。まずは飲み忘れにくい時間帯を選んでみてください。

Q. スイカは太りませんか?

水分が多く100gあたりのカロリーは低いため(約41kcal)[16]、適量(1日200g程度)であればダイエット中でも問題ありません。ただし、糖分も含むため食べ過ぎには注意しましょう。

読者のための「しないことリスト」&「アクションプラン」

最後に、あなたの健康習慣をより良くするための「避けるべきこと」と「おすすめのアクション」をまとめました。

しないことリスト

  • 塩分過多のトマト製品を常飲する:健康のために飲んで高血圧になっては本末転倒です。必ず成分表示を確認し、「食塩相当量」をチェックしてください。
  • 特定の食品だけを過信する:トマトやスイカは健康に良い食品ですが、病気を治す薬ではありません。バランスの良い食事を心がけてください。
  • 水分代わりの無制限なスイカ摂取:水分が多いとはいえ糖分も含みます。水やお茶の代わりとしてガブ飲みするのは避けましょう。

明日からできるアクションプラン

朝食の際、コップ1杯のトマトジュースに、小さじ1杯のオリーブオイルを垂らしてレンジで温めて飲んでみてください。これが、「加熱・油・朝」の条件を揃えた、効率的なリコピン摂取の一例です。スープのような感覚で美味しく続けられます。


免責事項

この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスに代わるものではありません。持病のある方、妊娠中の方、その他健康に不安のある方は、必ず事前に医師や管理栄養士にご相談ください。特に腎臓疾患等でカリウム制限がある方は、摂取量について主治医の指示に従ってください。また、高血圧や脂質異常症などで治療中の方は、リコピンを含む食品やサプリを増やすことだけで、自己判断で薬の量を変えたり中止したりしないようにしてください。

参考文献

[1] Tierney AC, Rumble CE, Billingsley SA, et al. Effect of dietary and supplemental lycopene on cardiovascular risk factors: A systematic review and meta-analysis. Adv Nutr. 2020;11(6):1453-1488.

[2] Ried K, Fakler P. Protective effect of lycopene on serum cholesterol and blood pressure: Meta-analyses of intervention trials. Maturitas. 2011;68(4):299-310.

[3] Inoue T, Tsuboi Y, Sakai O, et al. Effects of lycopene intake on HDL-cholesterol and triglyceride levels: A systematic review with meta-analysis. J Food Sci. 2021;86(8):3285-3302.

[4] Stahl W, Heinrich U, Wiseman S, Eichler O, Sies H, Tronnier H. Dietary tomato paste protects against ultraviolet light-induced erythema in humans. J Nutr. 2001;131(5):1449-1451.

[5] Asbaghi O, Rahimlou M, Aryaeian N, et al. Lycopene supplementation and blood pressure: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Herb Med. 2022;31:100521.

[6] Li X, Xu J. Lycopene and blood pressure: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Nutrients. 2013;5(9):3696-3712.

[7] Shi J, Le Maguer M. Lycopene in tomatoes: Chemical and physical properties affected by food processing. Crit Rev Food Sci Nutr. 2000;40(1):1-42.

[8] Unlu NZ, Bohn T, Francis DM, Nagaraja HN, Clinton SK, Schwartz SJ. Lycopene from heat-induced cis-isomer-rich tomato sauce is more bioavailable than from all-trans-rich tomato sauce in human subjects. Br J Nutr. 2007;98(1):140-146.

[9] Gärtner C, Stahl W, Sies H. Lycopene is more bioavailable from tomato paste than from fresh tomatoes. Am J Clin Nutr. 1997;66(1):116-122.

[10] Brown MJ, Ferruzzi MG, Nguyen ML, et al. Carotenoid bioavailability is higher from salads ingested with full-fat than with fat-reduced salad dressings as measured with electrochemical detection. Am J Clin Nutr. 2004;80(2):396-403.

[11] Aoki Y, Yoshida K, Nobuta Y, et al. Effect of eating time on lycopene bioavailability in rats and humans. Nippon Eiyo Shokuryo Gakkaishi (J Jpn Soc Nutr Food Sci). 2017;70(4):147-155.

[12] USDA Agricultural Research Service. FoodData Central: Watermelon, raw. U.S. Department of Agriculture.

[13] Edwards AJ, Vinyard BT, Wiley ER, et al. Consumption of watermelon juice increases plasma concentrations of lycopene and β-carotene in humans. J Nutr. 2003;133(4):1043-1050.

[14] Collins JK, Arjmandi BH, Claypool PL, et al. Watermelon consumption increases plasma arginine concentrations in adults. Nutrition. 2007;23(3):261-266.

[15] 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版). 2024.

[16] 文部科学省. 日本食品標準成分表2020年版(八訂). 2020.

末岡 啓吾

末岡 啓吾

パーソナルトレーニングジム「PriGym」代表トレーナー。
博士(理学)・NSCA認定トレーナー・パワーリフティング元日本記録保持者。
科学と実践の両軸で、一人ひとりの成長を支えます。