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ナイアシン(ビタミンB3)の効果を徹底解説!美肌からメンタルまで、知っておきたいウソとホント

「美肌ビタミン」「メンタルヘルスに効く」——。最近、そんな言葉とともに注目を集めている栄養素が「ナイアシン」です。しかし、その効果については様々な情報が飛び交い、中には誤解を招きかねないものも少なくありません。

この記事では、ナイアシンとは一体何なのか、その本当の働きから、多くの方が気になる美肌やメンタルへの効果、そして安全な摂り方まで、科学的な根拠(エビデンス)に基づいて専門的な視点から分かりやすく解説します。

ただし、最初に最も重要なことをお伝えします。ナイアシンには、エネルギー代謝を助けるといった「生命維持に不可欠な、科学的に確立された働き」と、美肌やメンタル改善といった「多くの人が期待するものの、現時点では科学的根拠が限定的な、あるいは誇張されがちな働き」の2つの側面があります。
この記事では、その両者を明確に区別し、何が事実で、何を過度に期待すべきでないのかを、公平な視点から明らかにしていきます。

この記事は2025年8月16日時点の最新情報に基づいています。

目次

この記事でわかること

  • ナイアシン(ビタミンB3)の代謝や健康維持における基本的な働き
  • 「塗る」と「飲む」では違う、ナイアシンの美肌効果の科学的根拠
  • サプリはいつ飲む?ラベルの読み方や選び方のポイント
  • 過剰摂取のリスクと、安全な摂取量の目安(RDA/UL)
  • ナイアシンを多く含む食品と、1日の食事メニュー例

そもそもナイアシン(ビタミンB3)とは?不足で起こる症状と3つの基本の働き

ニコチン酸とニコチンアミド、2つのナイアシン

ナイアシンはビタミンB群の一種で、「ニコチン酸」と「ニコチンアミドナイアシンアミドとも呼ばれます)」という2つの化合物の総称です。ビタミン(体内で補酵素NAD/NADPになる)としての役割は共通ですが、薬理作用(例:フラッシュや脂質低下作用)には違いがあります[1]。

【補足】名前が似ていますが、タバコに含まれる有害物質「ニコチン」とは全く異なる、体に必要な栄養素です。

エネルギー作りを支える「補酵素」としての働き

ナイアシンの最も重要な役割は、食事から摂った糖質や脂質、タンパク質を、私たちが活動するためのエネルギーに変える「代謝」のサポートです。

車で例えるなら、ナイアシンはエンジンオイルのような存在です。どれだけ高品質なガソリン(食事)を入れても、エンジンオイルがなければ各部品(酵素)はスムーズに動かず、やがてエンジンは焼き付いてしまいます。ナイアシンは体内の数百種類もの酵素が円滑に働くための「潤滑油」として、生命活動の根幹を支えているのです。

この働きのため、ナイアシンは体内で「NAD」や「NADP」といった補酵素に変換され、皮膚や粘膜の健康維持、神経系の正常な機能にも不可欠です[1, 2]。

食事からだけじゃない!トリプトファンからの体内合成

ナイアシンは食事から摂るだけでなく、必須アミノ酸「トリプトファン」からも体内で合成されます。食事中のタンパク質に含まれるトリプトファン60mgから、ナイアシン約1mgが生成されます[1]。

【用語解説】NE(ナイアシン当量)とは?
体内合成も考慮に入れるため、ナイアシンの摂取基準にはNE(Niacin Equivalents:ナイアシン当量)という単位が用いられます。ナイアシン1mgまたはトリプトファン60mgに相当する量が「1mgNE」です。

ナイアシン不足が引き起こす「ペラグラ」とは?

ナイアシンが極端に不足すると、「ペラグラ」という欠乏症を引き起こすことがあります(皮膚炎、下痢、精神神経障害が主症状)[1, 2]。幸い、多様な食品を摂取できる現代の日本ではまれですが、アルコール依存症の方、極端な偏食、あるいは特定の医薬品(イソニアジドなど)を服用している方はリスクが高まるため注意が必要です。

ナイアシンの効果は嘘?ホント?【美肌・精神・二日酔い】気になる作用を科学的に検証

【肌への効果】ニコチンアミドは「塗る」と「飲む」で効果が違う

「塗る」効果:化粧品成分としての有効性
化粧品として肌に塗布することによる局所的な効果は、科学的にも比較的期待が持てると言えるでしょう。日本ではニコチンアミドは医薬部外品の有効成分としてシワ改善等に用いられており、適切な配合濃度・使用方法での有効性が期待されます。5%のニコチンアミドを配合したクリームによるシワやシミの改善報告[5]や、皮脂分泌を抑え炎症を和らげる作用[6]が示唆されています。

「飲む」効果:食事やサプリでどこまで期待できるか
一方で、食事やサプリでナイアシンを飲むことが、直接的にシワやシミを劇的に改善するという強固な科学的根拠は、現時点では限定的です[2]。

【精神・メンタルへの効果】うつや不安は改善する?

うつ病、統合失-調症、不安障害などへの高用量ナイアシン療法(メガビタミン療法)が過去に注目された時期もありましたが、その有効性は質の高い研究で確認されていません。

例えば、統合失調症に対するナイアシンの有効性を検証したコクラン・レビュー(2012年)においても、明確な利益を示すエビデンスはないと結論付けられています[7]。現在、国内外の主要な精神科診療ガイドラインにおいても、ナイアシンは標準的な治療法として推奨されていません[2]。自己判断での高用量摂取は、効果が期待できないだけでなく、後述の健康リスクを伴うため絶対に避けるべきです。

【二日酔いへの効果】アルコール分解を助けるは本当か

アルコールが体内で分解される過程で、ナイアシンから作られる補酵素(NAD)が消費されるのは事実です。しかし、そこから飛躍して「ナイアシンを補給すれば二日酔いが予防・改善できる」という主張を裏付ける、信頼性の高い臨床研究(ヒト試験)は現時点で見当たりません[2]。二日酔いの最も確実な対策は、アルコールの摂取量を適度に保つことです。

【睡眠への効果】睡眠の質は向上する?

ナイアシンの原料となるアミノ酸「トリプトファン」が、睡眠に関わるセロトニンやメラトニンの材料になることから、睡眠への効果を期待する声があります。

しかし、ナイアシン自体を摂取することが直接的に睡眠の質を改善するという科学的根拠は、現時点では確立されていません[2]。睡眠の問題に関する近年のシステマティックレビュー等においても、ナイアシンが有効な介入手段として取り上げられることはなく、その効果は未確定です。

ナイアシンを多く含む食品一覧と効果的な摂り方

ナイアシンが豊富な食品リスト

  • 動物性食品: 豚レバー、鶏むね肉、かつお、まぐろ、ぶり など
  • 植物性食品: まいたけ、エリンギなどのきのこ類、落花生 など

【含有量の目安】

  • かつお(刺身1人前 約80g): 約15.2 mgNE
  • 鶏むね肉(皮なし 1/2枚 約100g): 約12.0 mgNE
  • 豚レバー(焼き 50g): 約8.0 mgNE
  • インスタントコーヒー(1杯 約2g): 約0.5〜1.0 mgNE

(注) いずれも日本食品標準成分表(八訂)のナイアシン当量(NE)に基づく概算。可食部/調理後の値であり、部位や季節で変動します。

1日の食事メニュー例(成人男性・約15mgNE)

  • 朝食: ご飯、味噌汁、納豆、焼き鮭(半切れ)
  • 昼食: きのこ(舞茸、エリンギ)のパスタ
  • 夕食: 鶏むね肉のソテー(100g)、サラダ、スープ
  • 間食: 落花生、コーヒー

吸収率を上げる調理法と食べ方のコツ

ナイアシンは水溶性のため、茹でると煮汁に溶け出します。スープごと飲める料理や、成分の流出が少ない蒸し料理、炒め物などが有利と考えられます。

ナイアシンサプリの注意点|副作用(フラッシュ)・過剰摂取のリスクと安全な選び方

サプリは必要?まずは食事からの摂取が基本

忙しい毎日の中で、常に完璧なバランスの食事を摂り続けるのは難しいものです。「手軽なサプリで補いたい」と感じるお気持ちは、非常によく分かります。

その上で、まずは基本に立ち返ることが重要です。日本の食事摂取基準(2025年版)[1]では、ナイアシンの推奨量(RDA)が示されており、多くの日本人は通常の食事でこれを満たせています。まずは日々の食事内容を見直し、それでも不足が心配される場合に、サプリメントは「補助的な選択肢」として検討するのが賢明なアプローチです。

ナイアシン推奨量(RDA)の簡易表 (mgNE/日)

年齢男性女性
18~29歳1511
30~49歳1512
50~64歳1412
65~74歳1411
75歳以上1310
付加量
妊婦 (中期以降)+2
授乳婦+3

(出典:日本人の食事摂取基準(2025年版)[1])

サプリはいつ飲む?効果的なタイミング

ナイアシンサプリの摂取タイミングに厳密な決まりはありませんが、水溶性ビタミンは一般的に食後に摂取すると吸収が穏やかになり、胃腸への負担も軽減されると考えられています。特にニコチン酸によるフラッシュを避けるためにも、空腹時を避け、食後の摂取が推奨されます。

サプリラベルの読み方:mgとmgNE、種類の見分け方

  • 単位を確認: mg表記かmgNE表記かを確認しましょう。サプリのナイアシン含有量はmgで表記されます。
  • 種類を確認: 成分表示を見て「ニコチン酸」か「ニコチンアミド」かを確認します。フラッシュを避けたい場合は「ニコチンアミド」が基本です。
  • 選び方の目安: 健康維持が目的なら、1日の推奨量(RDA)を超えない低用量の製品や、他のビタミンB群も含まれるマルチビタミンを選ぶのが安全です。医療目的以外での高用量摂取は避けましょう。

副作用①:皮膚が赤くなる「ナイアシンフラッシュ」とは

ニコチン酸を一度に多く摂取した際に、皮膚が赤くなる、熱くなる、かゆみが出るといった一過性の反応が起こることがあります[1, 2]。熱い飲み物やアルコール、香辛料の強い食事と同時に摂ると症状が強まることがあります。

副作用②:過剰摂取による肝機能障害などの健康リスク

過剰摂取による最も深刻なリスクは肝機能障害です[2, 4]。特に徐放性製剤では肝機能障害の報告が比較的多く、自己判断での高用量・長期使用は避けるべきです。その他、消化器症状、血糖値や尿酸値の上昇なども報告されています。

日本の食事摂取基準(2025年版)では、サプリメントや強化食品からの摂取について、以下の耐容上限量(UL)が設定されています[1]。通常の食事からの摂取でこの量を超えるリスクは、まずありません。

耐容上限量(UL)の簡易表(成人・mg/日)

年齢ニコチンアミド(mg/日)
18~29歳300 (25)
30~49歳350 (30)
50~64歳350 (30)
65歳以上300 (25)

【表の注記】

  • 出典:日本人の食事摂取基準(2025年版)[1]を基に成人の一部を抜粋。
  • この上限量は、通常の食品以外の供給源(サプリメント、強化食品、医薬品等)から摂取するナイアシンに適用されます。
  • 数値はニコチンアミドの上限量です。括弧()内の数値は、ニコチンアミドの総量に含まれるニコチン酸の上限量を示します。例えば30〜49歳の場合、ニコチンアミドとしての上限は350mg/日ですが、そのうちニコチン酸として摂取する量は30mg/日を超えてはならない、という意味です。

サプリ摂取前に医師への相談が必要なケース

以下に該当する方は、サプリメントを利用する前に必ず医師や薬剤師に相談してください。

  • 肝疾患、糖尿病・耐糖能異常、高尿酸血症・痛風、消化性潰瘍、高血圧などの持病がある方
  • スタチン系薬剤(脂質異常症治療薬)、抗てんかん薬、結核治療薬(イソニアジド)などを服用している方[2]

高用量を摂取する場合は、定期的な血液検査(肝機能、尿酸、血糖など)によるモニタリングが不可欠です。

【危険サイン】ナイアシン摂取でこんな症状が出たらすぐ相談を

サプリメント摂取後に以下の症状が現れた場合は、摂取を中止し、速やかに医療機関を受診してください。

  • 【至急受診(当日)】: 黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)、黒い便、強い動悸・めまいを伴うフラッシュ
  • 【早めに受診(数日以内)】: 食欲不振の持続、軽度の皮膚症状(赤み・かゆみ)の反復、吐き気

よくある質問(FAQ)

Q
ナイアシンの一番大切な働きは何ですか?

A

体内のエネルギー代謝を支える「エンジンオイル」のような働きが最も重要です。また、皮膚や粘膜の健康を保つためにも不可欠な栄養素です。

Q
美肌目的でナイアシンサプリを飲むのは効果がありますか?

A

化粧品として肌に「塗る」ことによるシワ改善などの効果は報告されています。しかし、サプリメントを「飲む」ことによる直接的な美肌効果を裏付ける科学的根拠は、現時点では限定的です。

Q
「ナイアシンフラッシュ」とは何ですか?危険な副作用ですか?

A

A3. ニコチン酸(ナイアシンの一種)を一度に多く摂取した際に起こる、一時的な皮膚の赤み・熱感・かゆみです。通常は数時間で治まるため危険性は低いとされますが、強い動悸やめまいを伴う場合は摂取を中止し、医師に相談してください。

Q
高用量のナイアシンでメンタルは改善しますか?

A

「改善する」という主張もありますが、科学的な根拠は乏しく、うつ病などの標準的な治療法として国内外のガイドラインで推奨されていません。自己判断での高用量摂取は健康リスクを伴うため、避けてください。必要な場合は必ず医療者に相談してください。

Q
ナイアシンサプリを飲む上で、最も注意すべきことは何ですか?

A

自己判断による過剰摂取です。特に、肝機能障害という重篤な副作用のリスクがあります。耐容上限量(UL)を参考に製品を選び、目安量を必ず守ってください。持病がある方や薬を服用中の方は、摂取前に必ず医師や薬剤師に相談することが最も重要です。

まとめ:ナイアシンの正しい知識で健康と美容に活かそう

ナイアシンは健康維持に不可欠な栄養素ですが、その効果を過信したり、誤った使い方で健康を害したりしないことが何より重要です。この記事で解説した正しい知識を基に、日々の食事を基本としながら、ナイアシンと上手に付き合っていきましょう。


免責事項

この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスに代わるものではありません。持病のある方、妊娠中の方、その他健康に不安のある方は、必ず事前に医師や管理栄養士にご相談ください。

参考文献

[1] 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版).
[2] 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所. 「健康食品」の安全性・有効性情報: ナイアシン.
[3] 文部科学省. 日本食品標準成分表2020年版(八訂).
[4] Kamal-Bahl S, et al. Int J Clin Pract. 2011;65(8):881-888.
[5] Bissett DL, et al. Int J Cosmet Sci. 2004;26(5):231-238.
[6] Wohlrab J, Kreft D. Skin Pharmacol Physiol. 2014;27(6):311-315.
[7] Soares-Weiser K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;(2):CD006930.
[8] Gille A, et al. Annu Rev Pharmacol Toxicol. 2008;48:79-106.
[9] Keen H, et al. BMJ. 1961;2(5259):1097-1099.
[10] AIM-HIGH Investigators, et al. N Engl J Med. 2011;365(24):2255-2267.
[11] HPS2-THRIVE Collaborative Group, et al. N Engl J Med. 2014;371(3):203-216.

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