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パントテン酸(ビタミンB5)はニキビ・皮脂に効くのか?効果の根拠と安全な使い方【食事での摂り方も解説】

「パントテン酸サプリで、長年のニキビがきれいになった」「皮脂が抑えられた」…SNSやネットの口コミで、そんな情報を見かけたことはありませんか?

「肌のビタミン」とも呼ばれるパントテン酸(ビタミンB5)。もし本当に効果があるなら、試してみたいと思うのは自然なことです。SNSで見る“高用量で皮脂が激減”といった体験談に惹かれる気持ち、よくわかります。

でも、少しだけ待ってください。そのサプリに手を出す前に、あなたの時間とお金を無駄にしないために、ぜひ知っておいてほしい「科学的な事実」があります。

この記事では、そんなあなたの疑問や期待に、正直にお答えします。難しい話は抜きにして、本当に大切なことだけを一緒に確認していきましょう。

この記事は2025年8月18日時点の最新情報に基づき、日本の厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」および国内外の科学論文・診療ガイドラインを参照しています。

この記事でわかること

  • パントテン酸が体内で果たす「エネルギー産生」という本来の役割
  • ニキビや皮脂への科学的な効果の結論(白髪やアトピーに関する疑問にも回答)
  • 1日の目安量(AI)を満たす具体的な食事のヒント
  • 皮膚科で相談する際に役立つチェックリストと、市販薬など次の一手
  • サプリメントを選ぶ際の確認ポイントと、副作用について

結論:パントテン酸の経口摂取に、ニキビ・皮脂を改善する科学的根拠は未確立

多くの方が最も知りたいであろう結論から先にお伝えします。

現状、ニキビや皮脂の改善を目的としてパントテン酸のサプリメントを経口摂取することについて、その有効性を明確に示す質の高い科学的根拠(エビデンス)は確立されていません。
【根拠の質:弱い(小規模・複合成分の試験が中心で、再現性が乏しい)】

その理由は以下の3点です。

  1. 生理機能と臨床効果の混同: パントテン酸が皮膚の健康維持に関わることは事実ですが、それが「サプリメントで補うことで、特定の肌悩みが改善する」ことを直接意味するわけではありません。
  2. 研究の質の限界: 根拠とされる一部の研究は、参加者が少ない、パントテン酸以外の成分も含まれている、独立した追試が行われていない、などの限界を抱えています[6]。
  3. 主要な診療ガイドラインでの不採用: 日本皮膚科学会などが発行する最新のニキビ治療ガイドラインにおいて、パントテン酸の経口摂取は標準治療として推奨されていません[11]。

📝 よくある誤情報のチェックリスト

  • 「高用量で皮脂が激減する」→ 未証明。 科学的根拠は確立されていません。
  • 「白髪が黒髪に戻る」→ 誤り。 ヒトでの有効性を示すデータはありません。
  • 「ビオチンと飲むと相乗効果」→ 未証明。 この組み合わせの優位性を示す根拠は不足しています。

よくある質問(FAQ)と次の一歩

結論を踏まえ、皆様の疑問に先にお答えし、次に取るべき具体的なアクションを提案します。

Q
パントテン酸でニキビは治りますか?

A

いいえ。 そのような有効性を保証する科学的データはありません。紹介される一部の研究[6]は、サンプルサイズが小さく、複数の成分を含む製品で評価されており、純粋なパントテン酸単独での効果や適切な用量は判定できません。

【次に取れる一歩:ニキビ・皮脂の悩み】

皮膚科受診が最善です。その際、以下の点をまとめておくと、診察がスムーズに進みます。

<皮膚科医に相談する際に役立つチェックリスト>

  • いつから、どの部位に悩んでいますか?
  • これまでに試したセルフケア(サプリ、市販薬、化粧品など)と、その期間・効果
  • 特に気になっていること(痛み、かゆみ、跡、皮脂の量など)
  • 生活習慣で気になること(食事、睡眠、ストレスなど)

また、市販薬でのケアも選択肢になりえます。

  • 一般用医薬品(OTC): 日本国内で一般用医薬品として入手可能な成分や製品は時期・地域で異なる場合があります。最新の取扱いや適切な製品選択は薬剤師・医師に確認してください。公的情報(医薬品医療機器総合機構 PMDA等)も参考にしましょう。
  • ポイント: 効果を判断するには、一般的に8~12週間ほどの継続使用が目安とされています。改善しない場合は皮膚科を受診してください。

Q
パントテン酸で白髪やアトピーへの効果はありますか?

A

いいえ。 こちらも同様に、サプリメントの経口摂取によって白髪やアトピー性皮膚炎が改善するという質の高い科学的根拠はありません。

  • 白髪: 動物実験や特殊な症例報告が主な根拠であり、一般的な加齢による白髪への有効性を示すものではありません。
  • アトピー性皮膚炎: 標準治療ではなく、経口摂取を推奨する主要なガイドラインはありません[12]。

Q
パントテン酸に副作用はありますか?飲み過ぎは大丈夫?

A

パントテン酸は安全性の高い成分ですが、サプリメントでの超高用量の摂取には注意が必要です。 日本では耐容上限量(UL)は設定されていませんが、超高用量では消化器症状の報告があり、そもそも高用量の有効性は示されていません。通常は食事からの摂取で十分です[1]。

Q
パントテン酸はいつ飲むのが効果的ですか?

A

医薬品ではないため、飲む時間に特別な決まりはありません。 水溶性ビタミンのため、食後に摂取すると吸収が穏やかになると言われています。製品の推奨に従うのが良いでしょう。

Q
パントテン酸を子どもは摂っても大丈夫?

A

通常の食事から摂る分には全く問題ありません。サプリメントは、子ども向けに用量が設計されていない場合が多く、自己判断での常用は推奨されません。心配な場合は小児科医や薬剤師にご相談ください。

Q
パントテン酸の摂取は他のビタミンB群と一緒が良い?

A

理論上はチームで働くビタミンですが、サプリメントで特定の成分を組み合わせることの相乗効果を示した十分な科学的根拠は不足しています。まずは多様な食品を含むバランスの良い食事を優先しましょう。

Q
パントテン酸を飲み忘れたらどうしたら良いですか?

A

気づいた時に1回分を飲んでください。ただし、次の摂取時間が近い場合は1回分を飛ばし、絶対に2回分を一度に飲まないようにしましょう。

Q
パントテン酸はどのくらいの期間で効果が現れますか?

A

そもそもサプリメントによる明確な有効性は確立されていません。肌の悩みについては、セルフケアを8~12週間続けても改善が見られない、あるいは悪化する場合は、皮膚科を受診することをお勧めします。

こんな症状は早めに皮膚科へ

セルフケアで様子を見るのではなく、早めの受診をおすすめする症状もあります。

  • 痛みを伴う大きな赤いしこりや、膿(うみ)が溜まったニキビが繰り返す
  • ニキビが顔全体や背中、胸などに急に広がってきた
  • ニキビ跡の色素沈着や凹凸が増えてきた(跡を残さないためには早期治療が重要です)

パントテン酸(ビタミンB5)の働き:エネルギー産生と肌の関係

パントテン酸の役割を理解するために、私たちの体を一つの巨大な「食品加工工場」に例えてみましょう。

この工場では、食事から摂ったごはん(糖質)やお肉(脂質・タンパク質)を、私たちが活動するための「エネルギー」という最終製品に加工しています。この加工プロセス全体を「代謝」と呼びます。

工場内ではたくさんの機械(これを「酵素」といいます)が働いていますが、その機械をスムーズに動かすためには「特殊なカギ」や「潤滑油」が必要です。この重要な役割を担うのが「補酵素」です。

パントテン酸は、この補酵素の中でも特に重要な「マスターキー」のようなもの(専門的には補酵素Aと呼ばれます)を作る材料になります。このマスターキーがないと、工場で最も重要なメインの生産ライン(専門的にはTCA回路)がストップしてしまうのです。

つまり、パントテン酸は、食べたものをエネルギーに変えるための、絶対に欠かせない”仕事人”。これが、パントテン酸が健康維持に不可欠と言われる本当の理由です。

「塗る」パントテン酸(デクスパンテノール)との違い

保湿や皮膚バリア機能のサポート目的で、外用(化粧品・医薬部外品など)にはパントテン酸の誘導体であるデクスパンテノール(プロビタミンB5)が配合されることがあります[10]。これは皮膚の局所で働く「塗る」タイプです。一方、サプリメントで摂る「飲む」パントテン酸は全身の代謝に関わります。用途と期待できる範囲が異なるため、同列に語らないことが大切です。

この章のポイント

  • パントテン酸は、体内でエネルギー代謝全体の“マスターキー”(補酵素A)を作る材料です。
  • 不足することは稀ですが、健康維持の土台として多様な食品からまんべんなく摂ることが大切です。
  • 保湿目的で使われる「塗る」タイプのデクスパンテノールと、「飲む」パントテン酸は役割が異なります。

パントテン酸が多い食品と、1日の満たし方

私たちの体を一つの工場に例えるなら、パントテン酸はそのエンジンを動かす重要な「部品」の一つです。しかし、特定の部品(栄養素)だけを大量に投入しても工場(身体)はうまく動きません。様々な種類の部品(食材)をバランスよく供給することが、工場全体を効率よく稼働させる秘訣です。

幸い、パントテン酸は多くの食品に含まれ[1, 5]、極端な偏食がなければ不足は稀です。1日の目安量(AI)は成人女性で5mg、男性で6mgとされており[3]、多様な食品を組み合わせることで自然に達成できる量です。

AI(目安量)とは?
十分な科学的根拠がなく「推奨量」を決められない場合に、健康な人々が実際に摂取している量などを基に、不足しないための目安として設定される値です[1,3]。

【補足】 日本の2025年版では成人AIは女性5mg・男性6mgに設定されていますが、海外機関(米NIH/欧州EFSA)では成人5mg(男女同一)が一般的です[1][4]。本記事は日本の基準に準拠しています。

日常的な食品に含まれるパントテン酸の目安

食品名1食の目安含有量の概算(生)
鶏むね肉(皮なし)100g約1.8mg
鶏レバー50g約7.0mg
1個 (50g)約0.8mg
納豆1パック (40g)約0.3mg
舞茸50g約0.75mg
アボカド1/2個 (約70g)約1.0mg
プレーンヨーグルト100g約0.6mg

出典:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より算出[5]。値は「生・可食部」基準の概算であり、加熱・部位・産地で変動します。特にヨーグルトや内臓肉は、製品・部位による差が大きいことが知られています。

達成メニュー例(加熱損失前の概算値)

  • 【女性向け:約5.65mg】
    • 朝: 納豆ごはん+卵1個(約1.1mg)
    • 昼: 鶏むね肉100gのサラダチキン(約1.8mg)
    • 夜: 舞茸50gの味噌汁+アボカド1/2個(約1.75mg)
    • 間食: プレーンヨーグルト100g(約0.6mg)
  • 【男性向け:約6.45mg】
    • 上記の女性向けメニューに、昼食でゆで卵を1個追加(+約0.8mg)するだけで、男性の目安量もクリアできます。

忙しいあなたへ!コンビニ・外食派のちょい足しテクニック

  • コンビニで選ぶなら: お弁当に「カップの豚汁」や「ゆで卵」、「サラダチキン」をプラス。小腹が空いたら「納豆巻き」や「ミックスナッツ」を。
  • 外食で頼むなら: 定食屋では「レバニラ炒め」や「豚の生姜焼き」が優秀。丼ものなら「親子丼」を選んでみましょう。

パントテン酸を逃さない調理のコツ

食品からのパントテン酸の吸収率は約40~61%で[1]、さらに加工・調理による損失は20%~最大80%に及ぶことがあります[1]。でも、心配しすぎる必要はありません。

大切なのは「色々な食品から、まんべんなく摂る」こと。スープや味噌汁のように「汁ごと食べられる」メニューは、溶け出た栄養も丸ごと摂れるので特に効率的ですよ。

この章のポイント

  • 1日の目安量は女性5mg・男性6mgで、多様な食品を組み合わせれば達成可能です。
  • コンビニや外食でも「ちょい足し」を意識すれば、手軽にパントテン酸を補えます。
  • 調理での損失は「汁ごと食べる」などの工夫でカバーし、数字に囚われすぎないことが大切です。

サプリメントを選ぶ前に知っておきたいこと

基本は食事からの摂取ですが、もしサプリメントを利用する際は以下の点を理解しておきましょう。

サプリメントを選ぶ場合の実践ポイント

  • 含有量の確認: 1粒に何mg含まれているか。目安量(AI)の何倍にあたるか把握しましょう。
  • 品質管理の確認: GMP(適正製造規範)認定工場で製造されているかなど、品質管理体制が明記されている製品は一つの目安になります。
  • 費用対効果: その価格に見合うだけの科学的根拠があるか、冷静に判断しましょう。「このサプリに投資する価値は、皮膚科医への相談や、バランスの取れた食事への投資と比べてどうだろう?」と自問自答してみるのも一つの方法です。

妊娠・授乳中の方へ

妊娠中・授乳中は目安量が少し増えます(妊婦 6mg/日、授乳婦 7mg/日)[3]。しかし、これは通常の和食を中心としたバランスの良い食事で十分に摂取可能な範囲です。自己判断での高用量サプリメントの常用は避け、不安な点は医師や管理栄養士にご相談ください。


まとめ:期待と限界を知り、賢く付き合おう

パントテン酸は、私たちの健康維持に欠かせない重要な栄養素ですが、特定の美容の悩みに対する「特効薬」ではありません。

  1. まずは食事から。 男女別の目安量(女性5mg・男性6mg/日本の2025年版)を、バランスの良い食事で満たすことが健康の土台です。
  2. 肌の悩みは専門医へ。 自己判断でサプリメントに頼る前に、皮膚科医に相談し、科学的根拠のある治療法を選択しましょう。
  3. サプリメントは補助的に。 もし利用するなら、その限界を理解した上で、あくまで食事の補助として、品質と用量を見極めて賢く付き合いましょう。

正しい知識を持つことが、時間やお金を無駄にせず、自身の健康を守る最善の策となります。


免責事項

この記事は情報提供目的であり、医学的アドバイスに代わるものではありません。持病のある方、妊娠中の方、その他健康に不安のある方は、サプリメントの摂取前に必ず医師や管理栄養士にご相談ください。

参考文献リスト

[1] National Institutes of Health. Pantothenic Acid: Fact Sheet for Health Professionals. [Internet]. Updated March 26, 2021 [cited 2025 Aug 18]. Available from: https://ods.od.nih.gov/factsheets/PantothenicAcid-HealthProfessional/
[2] Tahiliani AG, Beinlich CJ. Pantothenic acid in health and disease. Vitam Horm. 1991;46:165-228. doi: 10.1016/s0083-6729(08)60493-1.
[3] 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書. [Internet]. 2024 [cited 2025 Aug 18]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
[4] EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA). Scientific Opinion on Dietary Reference Values for pantothenic acid. EFSA Journal. 2014;12(2):3581. doi: 10.2903/j.efsa.2014.3581.
[5] 文部科学省. 日本食品標準成分表2020年版(八訂). [Internet]. [cited 2025 Aug 18]. Available from: https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
[6] Yang M, Moclair B, Hennessey V, et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled study of a novel pantothenic acid-based dietary supplement in subjects with mild to moderate facial acne. Dermatol Ther (Heidelb). 2014;4(1):93-101. doi: 10.1007/s13555-014-0052-3.
[7] Unna K, Richards GV. Relationship between pantothenic acid and achromotrichia. J Nutr. 1942;23(6):545-553.
[8] Zempleni J, Wijeratne SSK, Hassan YI. Biotin. Biofactors. 2009;35(1):36-46. doi: 10.1002/biof.8.
[9] EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA). Scientific Opinion on the substantiation of health claims related to pantothenic acid […]. EFSA Journal. 2010;8(10):1758. doi: 10.2903/j.efsa.2010.1758.
[10] Proksch E, de Bony R, Trapp S, Boudon S. Topical use of dexpanthenol: a 70th anniversary article. J Dermatolog Treat. 2017;28(8):766-773. doi: 10.1080/09546634.2017.1325310.
[11] 日本皮膚科学会ガイドライン. 尋常性痤瘡・酒さ治療ガイドライン2023. 日皮会誌. 2023;133(10), 2241-2300.
[12] Sidbury R, Al-Khafaji A, Davis DMR, et al. Guidelines of care for the management of atopic dermatitis: section 4. Prevention of disease flares and use of adjunctive therapies and approaches. J Am Acad Dermatol. 2024;91(2):397-414. doi: 10.1016/j.jaad.2023.08.083.

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