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レスベラトロールの真実|赤ワインの健康神話と「若返り」の科学的根拠を徹底検証
忙しい人へ|30秒でわかるこの記事の結論
- 赤ワイン神話の真実: 研究レベルの有効量を得るには「毎日ボトル100本」が必要な計算になり、健康目的で飲むメリットはありません。
- 若返り効果: マウスなどの動物実験では寿命延伸が確認されていますが、ヒトでの効果はまだ科学的に証明されていません。
- サプリの注意点: 薬(特に血液をサラサラにする薬)との飲み合わせにリスクがあり、自己判断での摂取は避けるべきです。
- 確実な対策: 流行の成分単体に頼るのではなく、野菜・果物を丸ごと食べる習慣と、お酒を控えることこそが、現時点で最も確実な老化対策です。
「赤ワインを飲むと長生きできる」「レスベラトロールという成分が老化を食い止める」。このような魅力的な見出しを目にしたことはありませんか?
健康や若さを保ちたいと願う私たちにとって、美味しいワインを飲むだけで健康になれるなら、これほど嬉しいことはありません。しかし、科学の世界はもう少し複雑で、そして少しだけシビアです。
この記事では、レスベラトロールと赤ワインにまつわる「期待」と「現実」のギャップを埋めていきます。
※この記事は2025年11月時点の最新の科学的知見(日本人の食事摂取基準2025年版など)に基づいています。
レスベラトロールとは何か?なぜ注目されたのか
まずは基本から整理しましょう。レスベラトロール(Resveratrol)とは、ブドウの皮、赤ワイン、ピーナッツ、ベリー類などに含まれる「ポリフェノール」の一種です。植物が紫外線やカビなどのストレスから身を守るために作り出す成分(生体防御物質)です[1]。
「フレンチ・パラドックス」の熱狂
この成分が一躍有名になったきっかけは、1990年代に提唱された「フレンチ・パラドックス(フランスの逆説)」という説です。
- 当時の観察事実: フランス人はバターや肉など、心臓病のリスクを高めるとされる「飽和脂肪酸」を多く摂取しているのに、なぜか心筋梗塞による死亡率が低い。
- 当時の仮説: 「彼らが日常的に飲んでいる赤ワイン(に含まれるレスベラトロール)が心臓を守っているのではないか?」[3]
この仮説は世界中を駆け巡り、空前の赤ワインブームを巻き起こしました。しかし、それから約30年が経過し、科学的な解釈は大きく変わってきています[13]。
この章のポイント
- レスベラトロールは、ブドウの皮などに含まれるポリフェノールの一種。
- 「脂肪摂取が多くても心臓病が少ない」というフランス人のパラドックス(逆説)がブームの火付け役となった。
- その後の研究で、この現象はワイン単独の効果ではない可能性が指摘されている。
【徹底解剖】科学が示す「期待」と「現実」のギャップ
「長寿遺伝子(サーチュイン)を活性化させる」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは嘘ではありませんが、「誰にとっての真実か」が重要です。
動物実験では「スーパー成分」だった
酵母、ハエ、線虫、そしてマウスを使った実験では、レスベラトロールは確かに輝かしい成果を上げました。高カロリー食を与えたマウスでも寿命が延びたり、代謝が改善したりするデータが報告されています[4]。
ヒトでは「再現性」に課題
しかし、私たちヒトでの臨床試験(RCT)となると、話は一貫しません。2021年のシステマティックレビュー(複数の研究のまとめ)では、体重や脂肪量の減少が示唆されたデータもありますが、BMIやウエスト周囲径に対する効果は解析方法によって結果が異なり、研究の質(エビデンスレベル)は低いと評価されています[5]。現時点では、「ヒトでも確実に痩せる・代謝が改善する」と断言できる段階ではありません。
なぜヒトでは効きにくいのか?
最大の壁は、「バイオアベイラビリティ(生体利用率)」の低さにあります。口から摂取したレスベラトロールは、腸で吸収された後、肝臓で極めて速やかに代謝(分解・排出の準備)されてしまいます。そのため、血液中に「効力を発揮できる形」で残る量は、ごくわずかであるという報告もあります[6]。
つまり、試験管の中や小さなマウスの体で起きた奇跡を、大きく複雑なヒトの体で再現するのは、現時点では非常に難しいのです。
この章のポイント
- マウスなどの動物実験では、寿命延伸や代謝改善の可能性が示されている。
- ヒトの試験では結果が分かれており、確実な効果があるとは言い切れない。
- ヒトが口から摂取しても、肝臓ですぐに分解されてしまい、全身に届きにくい(吸収率の問題)。
赤ワインは体に良いのか?悪いのか?
「それでも、赤ワインを少し飲むくらいなら体に良いのでは?」この疑問に対して、数字とリスクの両面から検証します。
赤ワインで有効量を摂るには「ボトル100本」が必要?
研究で代謝改善などの効果が(一部でも)示唆されるレスベラトロールの量は、多くの場合、1日あたり数百ミリグラム〜数グラム(g)という高用量です[7]。しかし、一般的な赤ワインに含まれる量は平均して1リットルあたり約2mg程度と微量です[2]。
計算してみましょう。
- 研究での摂取量: 150mg(仮定)
- ワインの含有量: 2mg / L
- 必要なワインの量: 75リットル(ボトル約100本)
毎日ボトル100本を飲むことは物理的に不可能ですし、その前に急性アルコール中毒のリスクがあります。
WHOの見解とアルコールのリスク
さらに重要なのが、アルコールそのもののリスクです。世界保健機関(WHO)の専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、アルコール飲料を「グループ1:ヒトに対して発がん性がある」と分類しています[11]。
近年の大規模な研究では、「健康への安全な飲酒レベルは存在しない(摂取量ゼロが最もリスクが低い)」という厳しい結論も出されています[12]。わずかなポリフェノールを摂るために、発がんリスクのあるアルコールを「健康目的で」摂取するのは、収支計算として推奨しにくいのが現状です。
この章のポイント
- 研究レベルの有効量を赤ワインで摂るには、毎日数十リットル飲む必要があり非現実的。
- アルコールには発がんリスクがあり、少量の飲酒でもリスクはゼロではない。
- 「健康のために」あえて赤ワインを飲み始める科学的メリットは薄い。
サプリメントなら効果はあるのか?
「ワインが駄目なら、濃縮されたサプリメントなら良いのでは?」と考える方もいるでしょう。ここでも慎重な判断が必要です。
日本の公的機関の見解
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」において、レスベラトロールの摂取基準(推奨量など)は設定されていません[8]。また、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所も、ヒトでの有効性については「信頼できる十分なデータが見当たらない」とし、特定の病気の予防効果を認めていません[9]。
欧州や米国においても同様に、サプリメントとしてレスベラトロールに「病気の予防・治療」をうたうような医薬品的な効果効能表示は、原則として認められていません[10]。
知っておくべき「飲み合わせ」のリスク
「食品だから安全」とは限りません。特に持病がある方は注意が必要です。レスベラトロールは、薬を分解する酵素などに影響を与える可能性があります。
- 抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用中の方: 出血リスクが高まる可能性があるため、自己判断での摂取は避けてください[15]。
- 消化器症状: 高用量の摂取(1,000mg以上など)で、吐き気や腹痛、下痢などが報告されています[14]。
この章のポイント
- 2025年現在、国が定める摂取基準はなく、病気の予防効果も公的には認められていない。
- 血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)などを服用している場合、相互作用のリスクがある。
- 高用量摂取ではお腹を壊すなどの副作用も報告されている。
今日からできる、科学的に正しい「抗酸化」習慣
ここまでの話で、少しがっかりされたかもしれません。「魔法の成分」はまだ見つかっていませんが、希望はあります。レスベラトロール単体ではなく、「丸ごとの食品」と「生活習慣」の力は科学的に証明されています。
1. 「抽出された成分」より「丸ごとの食品」を
サプリメントで特定の成分だけを大量に摂るよりも、ベリー類、ブドウ、ナッツ、野菜などを食事として摂る方が安全で効果的です。食品にはレスベラトロール以外にも、ビタミン、ミネラル、食物繊維など、相互に働き合う数千種類の成分が含まれているからです。
2. 現在の「フレンチ・パラドックス」の解釈
現在では、フランス人の健康の秘訣はワイン単体ではなく、以下のような複合的な要因だったと考えられています[13]。
- 野菜や果物の多さ
- オリーブオイル(良質な脂質)の活用
- 食事を楽しむ精神的なゆとり
これらは「地中海式食事法」とも共通する、心血管疾患のリスクを下げる強力なエビデンスがある習慣です。
3. お酒との付き合い方
「お酒は百薬の長」という言葉は、現代科学では修正されつつあります。飲むなら「楽しみ(嗜好品)」として割り切り、健康効果を期待して飲むのはやめましょう。休肝日を作り、総量を減らすことは、アルコールに関連するさまざまな病気のリスクを下げるうえで有効と考えられており、結果的に加齢に伴う健康リスクの抑制にもつながる可能性があります。
この章のポイント
- 特定の成分に頼るより、色々な野菜や果物を丸ごと食べる方がメリットが大きい。
- フランス人の健康は、ワインだけでなく食生活全体やライフスタイルの賜物。
- お酒は「健康食品」ではなく「嗜好品」として、節度を持って楽しむ。
よくある誤解と対策(FAQ)
Q1. それでも、レスベラトロールのサプリを試してみたいのですが?
A. 本記事として積極的にサプリを勧めるものではありませんが、利用を検討する場合は、信頼できるメーカーのものを選び、必ず表示された摂取目安量を守ってください。「これを飲めば痩せる」「病気が治る」といった過度な期待は禁物です。また、現在お薬を服用中の方は、自己判断で始める前に必ず主治医か薬剤師に相談してください。
Q2. 結局、赤ワインはやめたほうがいいですか?
A. 「好きな赤ワインを食事と一緒に楽しむ」こと自体を否定するものではありません。人生の楽しみやリラックス効果も大切だからです。重要なのは「健康のために無理をして飲む」ことや「ワインを飲んでいるから不摂生しても大丈夫」と誤解しないことです。
しないことリスト&代わりに心がけたいこと
記事の要点として、これだけは覚えておきたい「行動の是非」をリスト化しました。
| しないこと(Avoid) | 代わりに心がけたいこと(Action) |
|---|---|
| × 健康効果を期待して、無理に赤ワインを飲む | ◎ ワインは「嗜好品」として、飲むなら一般的なガイドラインで言われる範囲(グラス1杯程度を目安)にとどめ、食事と共にゆっくり楽しむ |
| × 「飲むだけで痩せる・若返る」という広告を鵜呑みにする | ◎ 変化には時間がかかると知り、食事・運動・睡眠の基本を見直す |
| × 薬を服用中なのに、医師に相談せずサプリを併用する | ◎ お薬手帳を持参し、薬剤師や医師にサプリ利用を相談する |
| × 特定の成分(レスベラトロール)だけを大量摂取する | ◎ 色とりどりの野菜や果物(ベリー類など)を食卓に並べる |
まとめ
レスベラトロールは、科学的に非常に興味深い成分であり、今後の研究でさらなる可能性が解明されるかもしれません。しかし、2025年現在の結論として、赤ワインやサプリメントを摂取するだけで、健康や長寿が約束されるわけではないということははっきりしています。
「魔法の杖」を探すよりも、今日の食事に彩り豊かな野菜を一品足すこと、そしてお酒と程よい距離を保つこと。地味に見えるその積み重ねこそが、あなたの健康を守るうえで、信頼できるエビデンスが多く示されている「王道のアプローチ」です。
今日から、賢い選択で本当の健康を積み重ねていきましょう。
免責事項
この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスに代わるものではありません。持病のある方、妊娠中の方、その他健康に不安のある方は、特定の食品やサプリメントを生活に取り入れる前に、必ず医師や管理栄養士にご相談ください。
参考文献
[1] Salehi B, Mishra AP, Nigam M, Sener B, Kilic M, Sharifi-Rad M, Fokou PVT, Martins N, Sharifi-Rad J. Resveratrol: A Double-Edged Sword in Health Benefits. Biomedicines. 2018;6(3):91.
DOI: 10.3390/biomedicines6030091
PMID: 30205595
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30205595/
[2] Snopek L, Mlcek J, Sochorova L, Baron M, Hlavacova I, Jurikova T, Kizek R, Sedlackova E, Sochor J. Contribution of Red Wine Consumption to Human Health Protection. Molecules. 2018;23(7):1684.
DOI: 10.3390/molecules23071684
PMID: 29997312
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29997312/
[3] Renaud S, de Lorgeril M. Wine, alcohol, platelets, and the French paradox for coronary heart disease. Lancet. 1992;339(8808):1523-6.
DOI: 10.1016/0140-6736(92)91277-F
PMID: 1351198
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1351198/
[4] Baur JA, Pearson KJ, Price NL, Jamieson HA, Lerin C, Kalra A, et al. Resveratrol improves health and survival of mice on a high-calorie diet. Nature. 2006;444(7117):337-42.
DOI: 10.1038/nature05354
PMID: 17086191
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17086191/
[5] Delpino FM, Figueiredo LM, Caputo EL, Mintem GC, Gigante DP. What is the effect of resveratrol on obesity? A systematic review and meta-analysis. Clin Nutr ESPEN. 2021;41:59-67.
DOI: 10.1016/j.clnesp.2020.11.025
PMID: 33487308
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33487308/
[6] Walle T. Bioavailability of resveratrol. Ann N Y Acad Sci. 2011;1215:9-15.
DOI: 10.1111/j.1749-6632.2010.05842.x
PMID: 21261636
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21261636/
[7] Brown VA, Patel KR, Viskaduraki M, Crowell JA, Perloff M, Booth TD, et al. Repeat dose study of the cancer chemopreventive agent resveratrol in healthy volunteers: safety, pharmacokinetics, and effect on the insulin-like growth factor axis. Cancer Res. 2010;70(22):9003-11.
DOI: 10.1158/0008-5472.CAN-10-2364
PMID: 20935227
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20935227/
[8] 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版).
URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
[9] 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所. 「健康食品」の安全性・有効性情報 素材情報データベース.
URL: https://hfnet.nibn.go.jp/
[10] EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA). Safety of synthetic trans-resveratrol as a novel food pursuant to Regulation (EC) No 258/97. EFSA Journal. 2016;14(1):4368.
DOI: 10.2903/j.efsa.2016.4368
URL: https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/4368
[11]International Agency for Research on Cancer. Personal Habits and Indoor Combustions. IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Volume 100E. Lyon: IARC; 2012.
URL: https://publications.iarc.fr/Book-And-Report-Series/Iarc-Monographs-On-The-Identification-Of-Carcinogenic-Hazards-To-Humans/Personal-Habits-And-Indoor-Combustions-2012
[12] GBD 2016 Alcohol Collaborators. Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. Lancet. 2018;392(10152):1015-35.
DOI: 10.1016/S0140-6736(18)31310-2
PMID: 30146330
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30146330/
[13] Ferrières J. The French paradox: lessons for other countries. Heart. 2004;90(1):107-11.
DOI: 10.1136/heart.90.1.107
PMID: 14676260
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14676260/
[14] Cottart CH, Nivet-Antoine V, Laguillier-Morizot C, Beaudeux JL. Resveratrol bioavailability and toxicity in humans. Mol Nutr Food Res. 2010;54(1):7-16.
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[15] Detampel P, Beck M, Krähenbühl S, Huwyler J. Drug interaction potential of resveratrol. Drug Metab Rev. 2012;44(3):253-65.
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