大豆オリゴ糖は便通に良い? 効果、安全性、FODMAPの注意点

要点

  • 大豆オリゴ糖とは?
    主成分は「ラフィノース」と「スタキオース」です。これらは豆類に多く含まれるオリゴ糖の一種です。名前が似ていますが、乳糖(ラクトース)から作られるガラクトオリゴ糖とは、原料も構造も異なる「別もの」として扱われます。[9]
  • 体でのはたらき
    人の消化酵素では分解されにくいため、小腸で吸収されずにそのまま大腸まで届きます。[3] そこで腸内細菌のエサとなって発酵し、「短鎖脂肪酸」という体に良いとされる酸と「ガス」が作られます。この働きが腸の調子を整えるのに役立つ一方で、お腹が張る原因にもなります。
  • ビフィズス菌への効果
    複数の研究で、大豆オリゴ糖がビフィズス菌を増やす可能性が示されています。[1][2] 例えば、信頼性の高い方法(二重盲検・プラセボ対照)で行われた7日間の試験で、ビフィズス菌の増加が確認されています。[1] ただし、研究の規模や期間、方法(比較対象の有無など)は様々です。
  • 便通(回数・便の形)への効果
    便通の改善を示した研究もありますが、まだデータは限定的で、個人差が大きいのが現状です。「必ず効く」というよりは、「試してみる価値はある」程度に考えるのが現実的です。
  • 安全性と摂取量
    日本の特定保健用食品(トクホ)では、1日あたり2~6gが目安とされています。ただし、摂りすぎたり、体質に合わなかったりするとお腹がゆるくなる(下痢)ことがあります。[7]
  • 【重要】FODMAPとしての注意点
    ラフィノースとスタキオースは、発酵しやすい糖質「FODMAP(フォドマップ)」の一種です。特にお腹がデリケートな人や、過敏性腸症候群(IBS)の人は、ガスやお腹の張り、腹痛などの症状が悪化することがあるため、摂取には注意が必要です。[6][5]

大豆オリゴ糖(ラフィノース・スタキオース)とは?

大豆オリゴ糖の主な成分は、ラフィノースとスタキオースという糖質です。これらはショ糖(砂糖)にガラクトースという糖がくっついた構造をしており、大豆などの豆類に豊富に含まれています。

よく似た名前に「ガラクトオリゴ糖」がありますが、市販品の多くは乳糖(牛乳に含まれる糖)を原料に酵素を使って作られます。大豆オリゴ糖とは構造(糖の結合の仕方)や作られ方が異なるため、似た名前でも区別して理解すると分かりやすいです。[9]

※大豆イソフラボンとの違い「大豆イソフラボン」はポリフェノールの一種で、女性ホルモンに似た作用などで知られます。糖質である「大豆オリゴ糖」とは全く別の成分であり、体への働きも異なります。

消化の仕組みとガスが出る理由

人の小腸には、ラフィノースやスタキオースを分解するための消化酵素がほとんどありません。そのため、食べても小腸でほとんど消化・吸収されず、ほぼそのままの形で大腸に届きます。[3]

大腸に届いた大豆オリゴ糖は、腸内細菌(特にビフィズス菌など)の「エサ」になり、発酵されます。この過程で、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)とガス(水素、メタンなど)が発生します。

  • 短鎖脂肪酸: 腸の動きを促したり、腸内環境を酸性に保ったりするなど、お腹の調子を整えるのに役立つと考えられています。
  • ガス: 発酵によってガスが作られるのは自然な反応ですが、量が多いとお腹が張る(腹部膨満)原因になります。

実際に、ラフィノースを10g摂取した試験では、その約97%が小腸で吸収されずに大腸の手前(終末回腸)まで届いたことが報告されています。[3]

エビデンス:ビフィズス菌への効果

大豆オリゴ糖が腸内細菌(特にビフィズス菌)に与える影響については、いくつかの研究があります。

  • Bouhnik 2004(7日間)
    健康な成人を対象とした信頼性の高い試験(二重盲検・プラセボ対照)です。大豆オリゴ糖を含む複数の難消化性糖質を1日2.5〜10g摂取したグループでは、ビフィズス菌が有意に増加しました。[1]
  • Bang 2007(30日間)
    16人の若年女性を対象に、1日1.5gのグループと3gのグループを比較した試験です。どちらのグループもビフィズス菌と短鎖脂肪酸の増加が報告されました。ただし、これはプラセボ(偽薬)を使った比較ではなく、規模も小さい研究です。[2]

【読み解きのポイント】ビフィズス菌を増やす効果は比較的多くの研究で確認されています。ただし、研究のデザイン(プラセボとの比較があるかなど)や期間は様々です。また、「ビフィズス菌が増えること」と「便通の悩みが必ず改善すること」はイコールではない点にも注意が必要です。

便通(排便回数・便形状)への効果

便秘の改善(排便回数や便の形)を主な目的とした大規模で長期間の研究は、まだ限られています。

全体として、「効果が期待できる人もいる」という段階であり、すべての人に効くとは言えません。便秘対策として試す場合は、2~4週間ほど続けてみて、ご自身の体調(便の回数、形、お腹の張り具合)を記録しながら判断するのが現実的です。

安全性・副作用と公的評価

日本(特定保健用食品:トクホ)日本では、大豆オリゴ糖を関与成分とした製品が「おなかの調子を整える」トクホとして許可されています。その一日摂取目安量は2〜6gです。ただし、「体質や体調によりおなかがゆるくなることがある」とも明記されており、摂りすぎには注意が必要です。[7]

米国(GRAS)米国のGRAS(一般に安全と認められる)制度の届出リストを調査した範囲では、「大豆オリゴ糖」「ラフィノース」「スタキオース」としての個別の届出は見当たりません(2025年11月2日時点)。ただし、届出がないことが安全性や流通の実態と必ずしも一致するわけではありません。[8]

ガスに関するデータ古い研究ですが、オリゴ糖を多く含む大豆粉は、オリゴ糖を少なく処理した大豆粉よりもガス(おなら)を増やしやすいことが示されています。これは、大豆オリゴ糖(ラフィノース、スタキオース)が腸内で発酵しやすいためです。[10]

摂取量の目安と始め方:まず少量から

【重要】製品の「総量」と「オリゴ糖の量」は違います

市販されている「大豆オリゴ糖」製品の多くは、オリゴ糖100%ではなく、ショ糖(砂糖)なども含む「混合物」です。

例えば、過去の研究で使われた素材では、乾燥重量のうちショ糖が約50%、スタキオースが約25%、ラフィノースが約9%という組成でした。[4] もしこれと同じ製品だった場合、「粉末を5g」摂っても、実際に摂れる「ラフィノース+スタキオース」の合計は約1.7gで、同時にショ糖を約2.5g摂っている計算になります(※実際の割合は製品ごとに異なります)。

購入・使用する際は、必ず製品ラベルの「栄養成分表示」や「関与成分」(ラフィノース、スタキオース)の含有量を確認してください。[7]

【始め方のステップ】

  1. まずは少量(関与成分として1日1~2g程度)から始めます。
  2. ヨーグルトや飲み物などに溶かし、1週間ほどお腹の張りやガスの出方を観察します。
  3. 問題なさそうであれば、1日3~5g程度まで、体調を見ながら少しずつ増やします。
  4. 2~4週間続け、便の回数や形、お腹の快適さに変化があるか記録してみましょう。
  5. お腹が張りすぎる、またはお腹がゆるくなる場合は、量を減らすか中止してください。

多量に摂取すると下痢をしやすくなる可能性が示されています。個人差が非常に大きいため、必ず少量から試すことが基本です。[4]

【要注意】ガス・腹部膨満とFODMAP

大豆オリゴ糖の主成分であるラフィノースとスタキオースは、FODMAP(フォドマップ)の「O(オリゴ糖)」に分類されます。[6]

FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい糖質の総称です。健康な人にとっては問題ありませんが、過敏性腸症候群(IBS)の人の場合、FODMAPを摂ることでガス、腹痛、下痢、お腹の張りなどの症状が悪化しやすいことが知られています。

IBSの治療では、一時的にこれらの摂取を制限する「低FODMAP食」が有効な場合があります。[5][6] お腹の不調が強い人は、自己判断で大豆オリゴ糖を試さず、まずは医師や管理栄養士に相談してください。

よくある質問

Q1. 大豆オリゴ糖と大豆イソフラボンは一緒に摂ってもOK?

はい、問題ありません。前述の通り、糖質(オリゴ糖)とポリフェノール(イソフラボン)は全く別の成分です。豆乳や納豆などの大豆製品には、どちらも自然に含まれています。

Q2. 食品だけで十分に摂れますか?

豆乳や納豆、きな粉などの大豆製品にも含まれますが、含有量は製品や加工方法によって異なります。毎日「数グラム」を安定して摂りたい場合は、含有量が明確な市販のオリゴ糖製品を利用する方が確実です。

Q3. 便秘に「効く」と言い切れますか?

ビフィズス菌を増やす効果は比較的安定して見られますが[1][2]、排便回数や便の形が改善するかは個人差が非常に大きいため、強い断定はできません。「試してみて、自分に合えば続ける」というスタンスが推奨されます。

Q4. 「ラフィノース」単体の情報も知りたいのですが?

本記事は「大豆オリゴ糖=ラフィノース+スタキオース」の全体像を解説しています。ラフィノース単体のより詳細な情報(吸収、効果、FODMAPとの関連など)については、既存記事「ラフィノースの効果と安全性|便秘・アトピー・摂取量・FODMAP・血糖値」をご覧ください。(※内部リンク想定)

参考文献

[1] Bouhnik Y, Raskine L, Simoneau G, Vicaut E, Neut C, Flourié B, et al. The capacity of nondigestible carbohydrates to stimulate fecal bifidobacteria in healthy humans: a double-blind, randomized, placebo-controlled, parallel-group, dose–response relation study. The American Journal of Clinical Nutrition. 2004;80(6):1658–1664. https://doi.org/10.1093/ajcn/80.6.1658

[2] Bang MH, Chio OS, Kim WK. Soyoligosaccharide increases fecal bifidobacteria counts, short-chain fatty acids, and fecal lipid concentrations in young Korean women. Journal of Medicinal Food. 2007;10(2):366–370. https://doi.org/10.1089/jmf.2005.096

[3] Shimaya S, Shimoyama T, Fukuda S, Matsuzaka M, Takahashi I, Umeda T, et al. The recovery rate at the human terminal ileum of an orally administered non-digestive oligosaccharide (raffinose). International Journal of Food Sciences and Nutrition. 2009;60(4):344–351. https://doi.org/10.1080/09637480801990454

[4] Hata Y, Yamamoto M, Nakajima K. Effects of soybean oligosaccharides on human digestive organs: estimation of fifty percent effective dose and maximum non-effective dose based on diarrhea. Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition. 1991;10(2):135–144. https://doi.org/10.3164/jcbn.10.135

[5] Lacy BE, Pimentel M, Brenner DM, Chey WD, Keefer LA, Long MD, et al. ACG Clinical Guideline: Management of Irritable Bowel Syndrome. The American Journal of Gastroenterology. 2021;116(1):17–44. https://doi.org/10.14309/ajg.0000000000001036

[6] Halmos EP, Power VA, Shepherd SJ, Gibson PR, Muir JG. A diet low in FODMAPs reduces symptoms of irritable bowel syndrome. Gastroenterology. 2014;146(1):67–75.e5. https://doi.org/10.1053/j.gastro.2013.09.046

[7] 消費者庁. 特定保健用食品(規格基準型)別表:オリゴ糖(大豆オリゴ糖 2〜6 g/日)、表示と注意事項. 2022-11-10. https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_specified_health_uses/assets/food_labeling_cms206_221110_03.pdf

[8] U.S. Food and Drug Administration. GRAS Notice Inventory. https://www.fda.gov/food/generally-recognized-safe-gras/gras-notice-inventory

[9] EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA). Scientific Opinion on the substantiation of health claims related to galacto-oligosaccharides produced from lactose. EFSA Journal. 2011;9(4):2060. https://doi.org/10.2903/j.efsa.2011.2060

[10] Suarez FL, Springfield J, Furne JK, Lohrmann TT, Kerr PS, Levitt MD. Gas production in humans ingesting a soybean flour derived from beans naturally low in oligosaccharides. The American Journal of Clinical Nutrition. 1999;69(1):135–139. https://doi.org/10.1093/ajcn/69.1.135

末岡 啓吾

末岡 啓吾

パーソナルトレーニングジム「PriGym」代表トレーナー。
博士(理学)・NSCA認定トレーナー・パワーリフティング元日本記録保持者。
科学と実践の両軸で、一人ひとりの成長を支えます。