ホーム > ダイエット情報局 > ビタミンB1|疲労・肌・ダイエットの悩みを“糖質代謝”からサポート【科学的解説】

ビタミンB1|疲労・肌・ダイエットの悩みを“糖質代謝”からサポート【科学的解説】

この記事でわかること

  • ビタミンB1が「エネルギー作り」に不可欠な理由(生化学の要点)
  • 疲労・肌荒れ・ダイエット停滞とB1不足の現実的な関係(誇張なし)
  • 食品データに基づく、B1を“無駄なく摂る”具体策

「しっかり寝ても抜けないだるさ」「甘い物がやめられない罪悪感」「頑張っているのに体重が動かない」——。意志の問題だけでなく、“糖質をエネルギーに回す流れ(代謝)”の滞りが関わることがあります。ここで鍵となるのがビタミンB1(チアミン)。本稿は公的基準と査読論文のみに基づき、B1の働き・不足サイン・実践的な摂り方を最新の根拠とともに解説します。

あわせて読みたい

第1章:ビタミンB1とは?—「糖質代謝の着火剤」

ビタミンB1は水溶性ビタミン。体内でチアミン二リン酸(ThDP)に活性化され、

  • ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDH)
  • α-ケトグルタル酸脱水素酵素複合体(OGDH)

など糖質由来のエネルギー産生の要となる酵素の補酵素として働きます。たとえるなら、糖質という“薪”に火をつける着火剤。B1が乏しいと糖質がATPに回りにくくなります[1]。

ポイント:B1は糖質→ATPへのボトルネックで機能する“補酵素=着火剤”。

第2章:B1不足で起こること—「だるさ」と“回らない代謝”

B1不足では、エネルギー不足に由来する倦怠感・集中力低下などが起こり得ます[2]。代謝中間体のピルビン酸の処理が滞ると、相対的に乳酸への流れが増えやすくなります。ただし重要なのは、乳酸=疲労物質ではないという現代的理解。乳酸は主要なエネルギー基質・シグナル分子として再利用されます(ラクトシャトル理論)[5]。歴史的には精白米偏重で脚気が多発。現代でも高糖質×低ミクロ栄養の食習慣、アルコール多飲、吸収不良、妊娠悪阻、透析、術後などでB1欠乏リスクが上がります[2]。

ポイント:B1不足は“代謝が回らない”状態を招き、だるさや集中力低下の背景になり得る。

第3章:疲労・肌・ダイエットとの“本当の”関係

3-1. 疲労感と日中パフォーマンス

B1は糖質からのATP産生を円滑化。十分なB1は日中のパフォーマンスの土台を支えます。ただし、健常者の疲労がB1だけで劇的に改善するとは一般化できません。不足の是正が前提です[1,5]。

3-2. 肌との関係は「間接効果」

公的表示ではB1は「炭水化物からのエネルギー産生と皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素」。これはエネルギー代謝という土台を通じた間接的な貢献を示すもので、B1単独で“美肌になる”とは主張できない点に注意[10]。

3-3. ダイエット(体重)との関係

結論:B1を摂るだけでは痩せません。体重は摂取・消費エネルギーの収支で決まります。ただしB1不足は糖質利用効率を下げるため、“摂った糖質をきちんと燃やす”という意味で間接的に減量努力を支える可能性があります。重度肥満など特定集団でB1関連指標と脂質異常の相関を示す観察研究はありますが(相関≠因果)[6]、直接的な減量効果を裏づける高品質RCTは不足しています。

まとめ:B1は代謝の土台。不足の是正が前提で、疲労・肌・ダイエットを“間接的に”支える可能性。

第4章:まずは“できることから”—実装ミニガイド

ねらい:完璧主義を捨て、今日から回せる“小さな仕組み”を作る。B1単独ではなく食事全体と生活状況の中で最適化する[2,3]。

4-1. 1分セルフチェック(週1でOK)

  • 主食は白米や小麦中心?(玄米・雑穀・全粒比率は?)
  • B1リッチ食材(豚肉・うなぎ・大豆製品)を週何回?
  • アルコール量は?(日本酒換算1合/ビール中瓶1本以上が続くなら要注意)
  • 朝~昼のだるさ・集中低下が続く?(睡眠不足や貧血、甲状腺など他要因の可能性も)
    → 2つ以上該当したら、第5章の食事術1・2を“1品だけ”採用してみる[2,7]。

4-2. 3つの基本戦略(優先度順)

1) 主食の質を底上げ:白米→玄米または白米:玄米=2:1ブレンドから。2) 主菜でB1を稼ぐ:週3回、豚ヒレ/もも/肩ロースを80–100 g目安にローテーション。3) 調理でロス最小化:短時間加熱・蒸し・汁ごと食べられる料理を増やす[11]。※ 推奨量は成人で 0.9–1.2 mg/日相当(年齢・性別で差あり)。まずは現状+0.3–0.4 mg/日の上積みを狙う[3,4]。

4-3. 7日スモールステップ(例)

  • :豚ヒレの生姜焼き+玄米小盛(B1 約1.3 mg想定/料理全体)
  • :納豆+木綿豆腐の味噌汁(汁まで)
  • :うなぎ小丼(タレは少量)
  • :ガーリックポークと玄米のワンボウル(※食事術2参照)
  • :豚ももと野菜の蒸ししゃぶ(ポン酢で)
  • :大豆たっぷりミネストローネ(ベーコン少々、汁ごと)
  • :自由枠(アルコールは控えめ、代わりに炭酸水)
    → “完全実行”ではなく週3達成で合格。できた分だけ記録。

4-4. 買い物・下処理のコツ

  • まとめ買い:豚ヒレを80 g小分け冷凍。解凍は冷蔵。
  • 乾物・常備:納豆/木綿豆腐/玄米パック/冷凍刻みニンニク。
  • 味付け:砂糖多めのタレは少量に。香味・酸味・香辛料で満足度アップ。

4-5. 生活シーン別ハック

  • トレ前後:高糖質食と一緒にB1供給源(豚・大豆)を添えると理にかなう[1,5]。
  • 外食:丼は並+豆腐/味噌汁を追加。ラーメンならチャーシュー増し+スープは控えめ
  • 忙しい日玄米パック+ツナ+冷凍ほうれん草+味噌汁で“3分メシ”。

4-6. 医療・栄養専門職へ相談する目安

  • アルコール多飲+ふらつき・眼振・意識混濁などWE疑い(至急受診。糖投与はチアミン前/同時が原則)[8]。
  • 透析・吸収不良・妊娠悪阻・術後など需要増/吸収低下がある[2]。
  • 心不全でのサプリ活用は欠乏の是正が中心。一律の効果は限定的で医療者の指導下で判断[9]。

まとめ:主食の質 × B1主菜 × 調理でのロス最小化。週3回の“できた”を積み上げれば十分[2,3,7,11]。

第5章:今日から実践!B1を無駄なく摂る食事術

食事術1:B1が多い“いつもの食材”を押さえる

以下は1食の目安量から算出したB1量(値は部位・調理で変動)。

食品(1食あたり目安)B1含有量(推定)1日の推奨量※に対する割合
豚ヒレ(生・可食部 80 g)1.06 mg約 88%
うなぎ蒲焼(可食部 100 g)0.75 mg約 63%
玄米ごはん(水稲めし 150 g)0.24 mg約 20%
納豆(1パック 50 g)0.09 mg約 8%
木綿豆腐(可食部 150 g)0.11 mg約 9%

※ 成人男性(30–49歳、身体活動レベルII)の推奨量=1.2 mg/日(日本人の食事摂取基準2025年版)。計算根拠:文科省・日本食品標準成分表2020(八訂)等の成分値に基づき、mg/100 g × 目安量(g)/100で算出。例)豚ヒレ(生)1.32 mg/100 g → 80 g で 1.06 mg、玄米ごはん 0.16 mg/100 g → 150 g で 0.24 mg など(参照日:2025-10-31)[7]。推奨量の年齢・性別・活動量別の具体値は厚労省資料を参照[3]。

実践のコツ:身近で高含有の筆頭は豚肉。主食を白米→玄米に切り替えるだけでもB1摂取は着実に増えます。

食事術2:「にんにく」と合わせる(理にかなった組み合わせ)

にんにくに含まれるアリシンはビタミンB1と反応してアリチアミン(thiamine allyl disulfide)様の化合物を生じやすく、ここから医薬品・サプリ用途の誘導体(例:フルスルチアミン)が発展しました。家庭料理レベルで“にんにくを足すだけでB1吸収が大幅に上がる”と一般化できる強固なヒトエビデンスはまだ限定的ですが、理にかなった伝統的ペアとしては有用です。

  • 調理のヒント
    • にんにくは刻んで数分(5–10分)置くと、アリイナーゼが働きアリシン生成が進みます。
    • その後は短時間加熱で香りを立て、汁ごと食べられる調理(スープ・炒め煮)ならB1ロスも抑制。
  • 献立例(にんにく×B1リッチ食材)
    • 豚ヒレのガーリックソテー(オリーブオイル+短時間加熱)
    • ガーリックポークと玄米のワンボウル(汁ごと食べられるソース仕立て)
    • 豚肉とにんにくのスープ(煮汁まで摂取)

調理のコツ:水と熱に“やさしく”

B1は水溶性で流出しやすい。ゆで調理では煮汁へ移行しやすいので、

  • 汁ごと摂れるスープ・煮物にする
  • 短時間の炒め蒸し調理を活用する
    とロスを減らせます[11]。

サプリは“補助輪”

食が乱れがちなときはBコンプレックスなどの利用も選択肢。ただし食事が基本。栄養機能食品の表示(B1の文言・下限/上限量)や用法を守り、過量摂取による過度期待は禁物です[10]。

第6章:摂取の目安・臨床評価・ハイリスク対応

6-1. 摂取基準と安全性

日本人の食事摂取基準(2025年版)の一例(30–49歳・身体活動レベルII):

  • 男性:1.2 mg/日
  • 女性:0.9 mg/日
    B1は水溶性で過剰は尿中へ排泄されやすく、耐容上限量(UL)は設定なし。国際比較ではEFSAのPRI 0.1 mg/MJ(≈0.4 mg/1,000 kcal)が参考になります[3,4]。

6-2. 臨床での栄養評価

  • 全血/赤血球ThDP濃度(HPLC):一次選好。
  • 赤血球トランスケトラーゼ活性(ETK)と活性化係数:古典的機能指標。
    (検査可用性は施設差があるため、臨床判断と組み合わせます)[2]。

6-3. 不足リスクが高い人と対応の考え方(テキスト表)

リスク要因代表例実務対応
摂取不足高糖質・低ミクロ栄養の食習慣、極端な偏食主食・主菜・副菜のバランス回復、B1高含有食品を日常に
吸収・需要増アルコール多飲、吸収不良、妊娠悪阻、術後、透析、過度の持久運動医療者に相談、必要時は検査+補充
薬剤一部の利尿薬など服薬中は主治医・薬剤師

重症例への注意:アルコール関連のウェルニッケ脳症(WE)が疑われる場合は緊急対応。実臨床ではブドウ糖投与の前/同時に高用量チアミンを投与する方針が体系的レビューでも支持されています(至適量・期間の確定には限界あり)[8]。心不全×チアミン:最新メタ解析では、欠乏の是正を除き主要臨床指標の一貫した改善は示されないとの結論(小規模・不均質性に留意)。医療者管理下で個別判断を[9]。

まとめ:“燃やせるから、前に進める”

  • B1は糖質代謝の“着火剤”。不足すれば代謝の流れが滞り、だるさ・集中力低下の一因に。
  • 肌への影響は“間接効果”(代謝の土台)。“飲めば痩せる”は誤り
  • 豚肉×香味野菜+調理の工夫で、毎日の食事から確実・現実的にB1を確保。
  • ハイリスク要因(アルコール多飲・吸収不良・特定薬剤など)があれば、早めに専門職へ

今日の一皿から、代謝を整える小さな一手を。完璧より、続く工夫を。

免責事項

本記事は一般的情報の提供を目的とし、医学的診断・治療の代替ではありません。持病・服薬中の方、サプリ利用を検討する方は医療・栄養の専門職にご相談ください。

参考文献

  1. Manzetti S, Zhang J, van der Spoel D. Thiamin function, metabolism, uptake, and transport. Biochemistry. 2014;53(5):821–835. https://doi.org/10.1021/bi401618y
  2. Whitfield KC, Bourassa MW, Adamolekun B, Bergeron G, Bettendorff L, Brown KH, et al. Thiamine deficiency disorders: diagnosis, prevalence, and a roadmap for global control programs. Annals of the New York Academy of Sciences. 2018;1430(1):3–43. https://doi.org/10.1111/nyas.13919
  3. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書(最終更新:2025-03-25). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
  4. EFSA NDA Panel. Dietary reference values for thiamin. EFSA Journal. 2016;14(12):4653. https://doi.org/10.2903/j.efsa.2016.4653
  5. Brooks GA. The science and translation of lactate shuttle theory. Cell Metabolism. 2018;27(4):757–785. https://doi.org/10.1016/j.cmet.2018.03.008
  6. Al-Daghri NM, Al-Attas OS, Alkharfy KM, Alokail MS, Abd-Alrahman SH, Sabico S. Thiamine and its phosphate esters in relation to cardiometabolic risk factors in Saudi Arabs. European Journal of Medical Research. 2013;18:32. https://doi.org/10.1186/2047-783X-18-32
  7. 文部科学省. 日本食品標準成分表2020年版(八訂)および増補2023:豚ヒレ・玄米めしの個票(参照日:2025-10-31). https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
  8. Day E, Bentham PW, Callaghan R, Kuruvilla T, George S. Thiamine for prevention and treatment of Wernicke–Korsakoff syndrome in people who abuse alcohol. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2013;(7):CD004033. https://doi.org/10.1002/14651858.CD004033.pub3
  9. He S, Wei J, Zhang X, Zhang X, Wang T, Song Y, et al. Role of thiamine supplementation in the treatment of chronic heart failure: An updated meta-analysis of RCTs. Clinical Cardiology. 2024;47(7):e24309. https://doi.org/10.1002/clc.24309
  10. 国立健康・栄養研究所(NIBIOHN)/消費者庁. 栄養機能表示の文言・基準:ビタミンB1(参照日:2025-10-31). https://hfnet.nibn.go.jp/vitamin/detail173/
  11. NIBIOHN. 水溶性ビタミンの調理による残存率の考え方(総説ページ). https://hfnet.nibn.go.jp/vitamin/
末岡 啓吾

末岡 啓吾

パーソナルトレーニングジム「PriGym」代表トレーナー。
博士(理学)・NSCA認定トレーナー・パワーリフティング元日本記録保持者。
科学と実践の両軸で、一人ひとりの成長を支えます。