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ビタミンD:骨の健康と最新の科学的知見

この記事の要旨

  • 骨・カルシウム代謝:ビタミンDは腸管でのカルシウム/リン吸収を促進し、血清カルシウム恒常性と骨のリモデリングを支える中核栄養素である。
  • 非骨格系アウトカム:VITAL など大規模 RCT により、がん・心血管疾患・うつ病の一次予防効果は全体として示されていない [3][4]。急性呼吸器感染症(ARI)予防に関しても、最新の総説では全体として有意差なしとの結論が更新されている [5]。
  • 転倒予防:USPSTF 2024 年の最終勧告は、地域在住高齢者の転倒予防の枠組みでビタミンD補充は推奨対象外(本勧告では扱わない)と整理。高用量ボーラスは害の可能性が示唆される [6][8]。
  • 過剰摂取:長期の高用量摂取(例:4,000–10,000 IU/日)は骨密度低下の可能性が報告され、日本の耐容上限量(UL)100 µg/日=4,000 IUを超えない運用が重要 [2][7]。
  • 実務指針:まず食事・日常の日光曝露で基礎を整え、不足分のみをサプリで補う。選ぶなら D3 を優先(血中 25(OH)D 上昇で D2 に優越)[9]。

1. ビタミンDとは?

ビタミンD(カルシフェロール)は脂溶性ビタミンで、皮膚が紫外線B(UVB)に曝露されると 7-デヒドロコレステロールから体内合成されます。食品・サプリからも摂取可能です。主作用は腸管でのカルシウム/リン吸収促進と、それに伴う血清カルシウム濃度の調節です。これにより骨形成・リモデリングが円滑化します [1]。

2. 健康効果:確立知見と最新エビデンス

2.1 骨・歯の健康(確立)

  • 吸収促進と骨代謝:ビタミンD不足下では、十分なカルシウム摂取があっても吸収効率が低下し、骨形成に支障を来します [1]。
  • 骨粗鬆症と骨折:適切なビタミンDとカルシウム摂取は骨密度維持に寄与しますが、骨折予防の効果は用量・併用・ベースライン不足の有無で影響されます。安易な高用量ボーラスや上限超過は推奨されません [7][8]。
  • 歯の健康:カルシウム利用効率の観点から理論的妥当性はあるものの、虫歯・歯周病の一次予防効果を示す介入エビデンスは限定的です [1]。

2.2 筋機能・転倒予防

ビタミンD受容体は筋に発現しますが、地域在住高齢者の転倒予防に関してビタミンD補充を推奨する根拠は現在の米国公衆衛生ガイダンスでは採用されていません。USPSTF 2024 年最終勧告は本トピックでビタミンDを対象外とし、エクササイズや多面的介入など別の方略を推奨枠組みで扱っています [6]。さらに、年 1 回の超高用量ボーラス(口服)で転倒・骨折増加が報告されています [8]。

2.3 感染症(ARI)予防

免疫調節作用(例:カテリシジン誘導)から予防効果が期待されましたが、最新の系統的レビュー/メタ解析(2025)では、全体として有意差なしと結論づけられています(サブグループによる差の可能性は引き続き探索課題)[5]。

2.4 慢性疾患(がん・心血管)

**VITAL(NEJM 2019)**では、健康成人を対象にビタミンD3 2,000 IU/日の一次予防効果を検証した結果、主要アウトカム(がん・主要心血管イベント)で有意な低減は示されませんでした [3]。

2.5 精神的健康(うつ病)

VITAL-DEP(JAMA 2020)は、長期ビタミンD3 2,000 IU/日がうつ病発症予防に有意差を示さないことを報告しました [4]。観察研究の関連は、逆因果(活動性や日光曝露の低下)など交絡の影響が示唆されます。

3. 不足(欠乏・不足の帰結)

  • 小児:重度の不足はくる病を引き起こし、骨の軟化・変形を来します。
  • 成人骨軟化症(骨痛・筋力低下・骨折リスク増)につながります。
  • 高齢者:骨粗鬆症や筋機能低下が進み、転倒・骨折リスクが上昇します [1]。

4. どれだけ摂ればよいか(日本・2025年版)

  • 目安量(AI):成人 9.0 µg/日(360 IU/日相当)[2]。
  • 耐容上限量(UL):成人 100 µg/日(4,000 IU)。サプリ運用時は UL を超えないことが必須 [2]。

変換目安:1 µg = 40 IU。例:25 µg ≒ 1,000 IU。

5. 摂取方法(食事・日光・サプリ)

5.1 食事

ビタミンDが豊富な食品は限られます。代表例:

  • 脂の多い魚:サケ、マグロ、サバ、サンマ など
  • キノコ:シイタケ、エリンギ、きくらげ、マイタケ(天日干しで含量上昇)
  • その他:魚肝油、卵黄、ビタミンD強化乳やシリアル 等 [1]

5.2 日光

日常生活での適度な日光曝露はビタミンD供給源ですが、皮膚がんリスクとのバランスが重要です。ビタミンD獲得のみを目的とした意図的な強い日焼けは推奨されません。不足分は食事・サプリで補いましょう [1]。

5.3 サプリメント

  • D2 と D3:メタ解析により、D3 の方が 25(OH)D 上昇効果に優れるとされています [9]。
  • 用量:不足是正は医療者の助言の下で。高用量の長期常用や年 1 回のボーラスは避ける(BMD 低下・転倒増の報告)[7][8]。
  • 体重減少:ビタミンD自体に直接の減量効果を示す高品質エビデンスはありません。減量は食事管理・運動など包括的介入が基本です [1]。

6. まとめ

  1. 骨とカルシウム代謝には不可欠。2) 非骨格系の一次予防効果は総じて限定的(VITAL、VITAL-DEP、最新 ARI メタ解析)[3][4][5]。3) サプリは不足補充に限定し、日本の AI 9.0 µg/日を一つの目安に、UL 100 µg/日(4,000 IU)を超えない。4) D3 優先高用量・ボーラスは回避 [2][7][8][9]。

参考文献

[1] National Institutes of Health, Office of Dietary Supplements. Vitamin D — Health Professional Fact Sheet. Available at: https://ods.od.nih.gov/factsheets/VitaminD-HealthProfessional/

[2] 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書. 公表: 2024-10-11(最終更新: 2025-03-25). Available at: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html

[3] Manson JE, Cook NR, Lee IM, Christen WG, Bubes V, Mora S, et al. Vitamin D Supplements and Prevention of Cancer and Cardiovascular Disease. The New England Journal of Medicine. 2019;380(1):33–44. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1809944

[4] Okereke OI, Reynolds CF 3rd, Mischoulon D, Chang G, Vyas CM, Cook NR, et al. Effect of Long-term Vitamin D3 Supplementation vs Placebo on Risk of Depression or Clinically Relevant Depressive Symptoms and on Change in Mood Scores: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020;324(5):471–480. https://doi.org/10.1001/jama.2020.10224

[5] Jolliffe DA, Camargo CA Jr, Sluyter JD, Aglipay M, Aloia JF, Bergman P, et al. Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory infections: systematic review and meta-analysis of stratified aggregate data. The Lancet Diabetes & Endocrinology. 2025;13(4):307–320. https://doi.org/10.1016/S2213-8587(24)00348-6

[6] U.S. Preventive Services Task Force. Falls Prevention in Community-Dwelling Older Adults: Interventions — Final Recommendation Statement. 2024-06-04. Available at: https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/falls-prevention-community-dwelling-older-adults-interventions

[7] Burt LA, Ilinca A, Kohli N, McKay HA, Boyd SK. Effect of High-Dose Vitamin D Supplementation on Volumetric Bone Mineral Density and Bone Strength: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019;322(8):736–745. https://doi.org/10.1001/jama.2019.11889

[8] Sanders KM, Stuart AL, Williamson EJ, Simpson JA, Kotowicz MA, Young D, et al. Annual High-Dose Oral Vitamin D and Falls and Fractures in Older Women: A Randomized Controlled Trial. JAMA. 2010;303(18):1815–1822. https://doi.org/10.1001/jama.2010.715

[9] Tripkovic L, Lambert H, Hart K, Smith CP, Bucca G, Penson S, et al. Comparison of Vitamin D2 and Vitamin D3 Supplementation in Raising Serum 25-Hydroxyvitamin D Status: A Systematic Review and Meta-analysis. The American Journal of Clinical Nutrition. 2012;95(6):1357–1364. https://doi.org/10.3945/ajcn.111.031070

末岡 啓吾

末岡 啓吾

パーソナルトレーニングジム「PriGym」代表トレーナー。
博士(理学)・NSCA認定トレーナー・パワーリフティング元日本記録保持者。
科学と実践の両軸で、一人ひとりの成長を支えます。