「ダイエットしたいけど、将来妊娠できるか心配…」
そう思っている方はいませんか?
無理なダイエットは、生理不順や無月経を引き起こし、不妊のリスクを高める可能性があります。
この記事では、ダイエットと不妊の関係性について、医学的な根拠に基づいて解説します。正しい知識を身につけることで、健康的に痩せながら、将来の妊娠にも備えましょう。
ダイエットが不妊に与える影響
ダイエットは、体重や体型をコントロールする上で有効な手段ですが、過度なダイエットは女性の体に様々な悪影響を及ぼし、不妊の原因となることがあります。
- 女性ホルモンの乱れ
過度なダイエットは、女性ホルモンのバランスを崩し、排卵障害や月経異常を引き起こす可能性があります。女性ホルモンは、卵巣から分泌されるホルモンで、妊娠に不可欠な役割を担っています。エストロゲンとプロゲステロンという2つの女性ホルモンが、月経周期や排卵をコントロールし、子宮内膜を厚くして受精卵の着床を助けるなど、妊娠に必要な体の準備を整えています。しかし、過度なダイエットによって体重が極端に減少したり、体脂肪率が低下したりすると、これらのホルモンの分泌量が減少し、ホルモンバランスが乱れてしまいます。その結果、排卵が正常に行われなくなったり、月経周期が乱れたりすることがあります。[1, 2]
- 無月経・生理不順
ダイエットが原因で無月経や生理不順になることがあります。無月経とは、3ヶ月以上月経が来ない状態を指し、生理不順は、月経周期が24日以内または38日以上と著しく短い、あるいは長い状態を指します。これらの状態は、排卵障害が起こっている可能性を示唆しており、妊娠を難しくする要因となります。[3]
- 低体重や体脂肪率の低下
BMI(ボディマス指数)が18.5未満の低体重や、体脂肪率が極端に低い状態も、不妊のリスクを高めます。BMIは、体重と身長の関係から算出される体格指数で、18.5未満は低体重、18.5~25未満は普通体重、25以上は肥満とされています。体脂肪率は、体重に占める脂肪の割合を示す数値です。妊娠するためには、ある程度の体脂肪が必要であり、体脂肪率が低すぎると、女性ホルモンの分泌が減少し、排卵障害が起こりやすくなります。[4] また、低体重や体脂肪率の低下は、妊娠後の流産や早産のリスクを高める可能性も指摘されています。
- 栄養不足による卵子の質の低下
ダイエットによる栄養不足は、卵子の質の低下を招く可能性があります。卵子は、女性の卵巣内で作られる生殖細胞で、受精して胚となるためには、質の良い卵子であることが重要です。卵子の質は、加齢や生活習慣、ストレスなど様々な要因に影響を受けますが、栄養状態も重要な要素の一つです。特に、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素は、卵子の発育や成熟に不可欠です。ダイエットによってこれらの栄養素が不足すると、卵子の質が低下し、受精率や着床率が低下する可能性があります。[5]
妊娠に悪影響を与える可能性のあるダイエット方法
妊娠を希望する女性は、以下のダイエット方法に注意が必要です。
- 極端な食事制限
1日の摂取カロリーを極端に制限するダイエットは、栄養不足を引き起こし、女性ホルモンの分泌を抑制する可能性があります。[6] また、急激な体重減少は、体に大きな負担をかけ、健康を損なうリスクがあります。
- 偏った栄養摂取
特定の食品のみを摂取する、あるいは特定の栄養素を極端に制限するダイエットは、栄養バランスを崩し、卵子の質の低下や妊娠合併症のリスクを高める可能性があります。[7]
- 過度な運動
過度な運動は、エネルギー消費量を増やし、体重減少を促進しますが、同時に体にストレスを与え、女性ホルモンのバランスを崩す可能性があります。[8]
- ストレスの多いダイエット
厳しい食事制限や過度な運動など、ストレスを伴うダイエットは、自律神経のバランスを乱し、ホルモン分泌に悪影響を与える可能性があります。[9]
「女性アスリートの三主徴」に注意!
過度なダイエットは、「女性アスリートの三主徴」と呼ばれる状態を引き起こす可能性があります。女性アスリートの三主徴とは、
- 無月経
- 摂食障害
- 骨粗鬆症
の3つが重なった状態を指します。[10]
女性アスリートの三主徴は、過度な運動や食事制限によるエネルギー不足が原因で起こると考えられています。エネルギー不足になると、体は生命維持に必要な機能を優先するため、生殖機能を抑制しようとします。その結果、無月経や排卵障害が起こりやすくなります。[11] また、摂食障害は、体重や体型に対する過度な不安や強迫観念から、極端な食事制限や過食嘔吐を繰り返す精神疾患です。摂食障害になると、栄養不足やホルモンバランスの乱れから、無月経や骨粗鬆症のリスクが高まります。[12] 骨粗鬆症は、骨密度が低下し、骨がもろくなる病気です。女性ホルモンのエストロゲンは、骨の形成を促進する働きがあるため、無月経やエストロゲン分泌の低下によって骨粗鬆症のリスクが高まります。
女性アスリートの三主徴は、不妊症だけでなく、将来的な健康にも深刻な影響を与える可能性があります。
健康的に痩せながら妊娠力を守るダイエット方法
健康的に痩せながら妊娠力を守るためには、以下のポイントを意識しましょう。
- バランスの取れた食事
主食、主菜、副菜を揃え、栄養バランスを意識した食事を心がけましょう。特に、タンパク質、ビタミン、ミネラルを十分に摂取することが重要です。[13]
- 適度な運動
激しい運動ではなく、ウォーキングやヨガなど、無理のない運動を継続しましょう。[14]
- ストレスを溜めない生活習慣
十分な睡眠、リラックスできる時間、趣味を楽しむなど、ストレスを溜めない生活習慣を心がけましょう。[15]
- 専門家への相談
栄養士や医師など、専門家に相談しながらダイエットを進めることも有効です。[16]
妊活中のダイエット
妊活中は、以下の点に注意しながらダイエットを行いましょう。
- 急激な体重減少は避ける
妊娠を希望する場合は、急激な体重減少は避け、ゆっくりと体重を落とすようにしましょう。
- 葉酸など、積極的に摂取したい栄養素
葉酸は、妊娠初期に胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減する効果がある栄養素です。妊活中は、葉酸を豊富に含む食品を積極的に摂取したり、サプリメントを服用したりすることが推奨されています。[17]
- BMIを正常範囲に保つ
BMIが低すぎたり高すぎたりすると、妊娠合併症のリスクが高まる可能性があります。妊活中は、BMIを正常範囲(18.5~25未満)に保つように心がけましょう。[18]
まとめ
この記事では、ダイエットと不妊の関係性について解説しました。
無理なダイエットは、女性ホルモンのバランスを崩し、不妊のリスクを高める可能性があります。健康的に痩せながら妊娠力を守るためには、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレスを溜めない生活習慣を心がけましょう。
妊活中は、急激な体重減少を避け、葉酸など必要な栄養素を十分に摂取し、BMIを正常範囲に保つことが重要です。
もし、ダイエットについて不安や疑問がある場合は、医療専門家へ相談することをおすすめします。
参考文献
[1] Gordon CM. Functional hypothalamic amenorrhea. N Engl J Med. 2017;376(21):2042-2052. DOI: 10.1056/NEJMra1603455.
[2] Meczekalski B, Katulski K, Czyzyk A, et al. Functional hypothalamic amenorrhea and its influence on women’s health. J Endocrinol Invest. 2014;37(11):1049-1056. DOI: 10.1007/s40618-014-0169-3.
[3] De Souza MJ, Toombs RJ, Scheid JL, et al. High prevalence of subtle and severe menstrual disturbances in exercising women: confirmation using daily hormone measures. Hum Reprod. 2010;25(2):491-503. DOI: 10.1093/humrep/dep417.
[4] Friel JK, Weltman AL, Bloch CA, et al. The impact of energy availability on menstrual function in young women. J Clin Endocrinol Metab. 2008;93(11):4413-4418. DOI: 10.1210/jc.2008-0429.
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[18] National Institute for Health and Care Excellence. Weight management before, during and after pregnancy. Clinical guideline [CG62]. London: NICE; 2010.