【科学でわかる】ビタミンB6の効果と安全な摂り方|肌荒れ・PMS・つわり/多い食品・サプリ・過剰摂取
「最近、肌荒れが気になる…」
「妊娠中のつわりが辛い…」
「月経前の気分の落ち込みをどうにかしたい…」
こうしたお悩み、もしかしたら「ビタミンB6」が関係しているかもしれません。ビタミンB6は、私たちの心と体の健康を陰で支える、非常に重要な栄養素です。
この記事では、最新の科学的根拠(エビデンス)に基づき、ビタミンB6の正しい知識を、どこよりも分かりやすく、そして誠実に解説します。
ただし、ビタミンB6が特定の症状に「効く」という話には、科学的な証拠のレベルに大きな差があるのが現状です。この記事では、専門家の間で「確かなこと」とされている事実と、「まだ研究段階であること」を明確に区別し、あなたが安全に知識を活用するための情報だけを厳選してお届けします。
この記事は2025年8月時点の最新情報に基づいています。
この記事でわかること|効果・食品・推奨量・副作用・サプリのポイント
- ビタミンB6が肌や心の健康にどう関わるかという「本当の働き」
- 1日に必要な量(推奨量)と、それを満たす具体的な食べ物の組み合わせ
- サプリメントの安全な使い方と、知っておくべき過剰摂取の副作用
- 肌荒れ・つわり・PMSとの関連性についての、現在の科学的な見解
ビタミンB6(ピリドキシン)の働き|補酵素PLPとしての役割と代謝
【この章の要点】
- ビタミンB6は、体内で活性型の補酵素「PLP」に変わり、100種類以上の酵素反応を支える。
- タンパク質の代謝に深く関わり、肌や髪の健康を維持する「修復サポーター」。
- 心の安定に関わる神経伝達物質の合成にも不可欠な栄養素。
ビタミンB6(ピリドキシン等の総称)は、体内で「ピリドキサール-5′-リン酸(PLP)」という“活性型の補酵素”に姿を変え、多数の酵素の働きを支えます[1, 2]。特に、アミノ酸(タンパク質の構成要素)の代謝に深く関わるため、健康な皮膚や髪、筋肉を作るための「修復サポーター」と言えるでしょう。
また、心の安定に関わるセロトニンなどの神経伝達物質をつくる過程では、いわば「司令を伝える分子の材料」として必須であり[2, 3]、免疫機能の維持やヘモグロビンの合成など、その働きは多岐にわたります。
食事で補うビタミンB6|1日の推奨量(RDA)と多い食品・調理のコツ
【この章の要点】
- 成人の推奨量は1日1.2〜1.5mgが目安。日々の食事で十分に達成可能。
- 鶏肉・まぐろ・かつお・バナナなどに豊富に含まれる。
- 調理の工夫で、損失を抑え効率よく摂取できる。
ビタミンB6は、サプリメントを考える前に、まず日々の食事から十分に摂取することが基本です。
1日の推奨量(RDA)|年齢別・妊娠中/授乳中
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、ビタミンB6の推奨量(RDA)が定められています[1]。
- 成人男性: 18〜64歳で 1.5 mg/日、65歳以上で 1.4 mg/日
- 成人女性: 1.2 mg/日
- 妊娠中: +0.2 mg/日 の付加
- 授乳中: +0.3 mg/日 の付加
ビタミンB6が多い食品一覧と献立例(日本食品標準成分表ベース)
以下の食品に豊富に含まれています。
食品カテゴリー | 具体的な食品例 | 1食分の目安量と含有量(mg) |
---|---|---|
魚介類 | まぐろ(赤身) | 刺身80gで 約0.86 mg |
かつお | 刺身80gで 約0.68 mg | |
肉類 | 鶏むね肉(皮なし) | 1/2枚(120g)で 約0.79 mg |
牛レバー | 焼き鳥1本(30g)で 約0.27 mg | |
果物類 | バナナ | 1本(100g)で 約0.38 mg |
種実類 | ピスタチオ(いり) | 手のひら1杯(20g)で 約0.24 mg |
その他 | にんにく、パプリカ | 香味野菜として幅広く活用 |
(数値は日本食品標準成分表(八訂)[6]に基づく概算値であり、個体差や調理法により変動します) |
調理による損失と吸収率を高めるコツ
ビタミンB6は水溶性で熱に弱いですが、「蒸す・炒める」「スープなど煮汁ごと摂る」「長時間、水にさらさない」といった工夫で損失を抑えられます。
【最重要】ビタミンB6の安全性|欠乏症と過剰摂取(副作用)
【この章の要点】
- 不足すると口内炎や皮膚炎などの欠乏症が起こりうる。
- サプリの長期・過剰摂取は、手足のしびれなどの末梢神経障害を引き起こす。
- 安全な上限(UL)は年齢で異なる。食事での超過はまずないが、サプリ摂取時は要注意。
欠乏症の主な症状と原因
ビタミンB6が不足すると、皮膚炎(特に脂漏性皮膚炎)や口角炎、舌炎、貧血、気分の落ち込みなどが現れる可能性があります[1, 4]。ただし、単独での欠乏は稀です。
過剰摂取の副作用|末梢神経障害のリスクと耐容上限量(UL)
リスクは主にサプリメントの長期・過剰摂取によって生じます。食事だけで耐容上限量(UL)を超えることはまずありません。最も注意すべき副作用は「感覚性ニューロパチー(末梢神経障害)」で、典型的には手袋・靴下状のしびれなど、手足の末端に症状が現れます。改善に時間がかかることもあります[1, 7]。
- 日本の基準(食事摂取基準2025年版): ULは年齢で異なります。例えば、男性は30–64歳で60mg/日ですが、18–29歳や65–74歳では55mg/日、75歳以上では50mg/日です。女性は18–64歳で45mg/日、75歳以上では40mg/日となります[1]。
- 海外の基準: 米国のULは100mg/日、欧州(EFSA)のULは12mg/日など、国や機関によって大きな差があります。日本での実践は、まず国内基準を優先すべきですが、いずれの基準下でも「サプリメント等で中等量を長期的に摂り続けることには慎重であるべき」という方向性は共通しています。
もし、しびれ、痛み、感覚の鈍さなどを感じた場合は、直ちにサプリメントの摂取を中止し、必ず医療機関を受診してください。
血中濃度(PLP)と検査の目安
医師が必要と判断した場合、血中の活性型ビタミンB6(PLP)濃度を測定する血液検査で、体内のB6の状態を評価することがあります。自己判断でサプリを試す前に、まずは専門家にご相談ください。
【症状別】有効性の科学的エビデンス
【この章の要点】
- つわりの吐き気には、医師の管理下で有効性が示されている。
- 肌荒れは欠乏時に起こるが、美肌目的での上乗せ効果は不明。
- PMSやうつ病への効果は、現時点では限定的で、過度な期待は禁物。
肌荒れ・ニキビへの効果|期待できること・できないこと
ビタミンB6は皮膚のターンオーバーに関わるため、欠乏が原因の皮膚炎には改善が期待できます。しかし、健常な人が美肌やニキビ改善を目的としてB6を追加摂取することの有効性を示した、質の高い研究は限定的です。
妊娠中のつわり(妊娠悪阻)への効果と安全な用量
根拠の強さ:比較的強い
複数の研究で、ビタミンB6がつわりの「悪心(吐き気)」を軽減することが示されています[8, 9]。国内外の診療ガイドラインに基づき、医師の管理下で1回10〜25mgを1日3〜4回といった用法が示されることがあります[10]。自己判断での使用は絶対に避けてください。
《受診の目安》: 24時間以上、食べ物や水分を受け付けない、尿量が著しく減る・色が濃くなる、めまいやふらつきがある、体重が妊娠前から5%以上減少したなどの場合は、速やかに産婦人科を受診してください。
月経前症候群(PMS/PMDD)への効果と限界
根拠の強さ:可能性あり
PMS症状を和らげる可能性を示唆する研究はありますが[5, 11]、現時点では「効果がある可能性」にとどまります。インターネット上では「PMSに効く」と断定的に書かれていることもありますが、科学的根拠は限定的です。
うつ・気分の落ち込みとの関連性
B6欠乏はリスク因子の一つですが[12]、サプリで予防・治療できるという明確な証拠は確立されていません[13]。持続する気分の落ち込みは、必ず専門医に相談してください。
ビタミンB6サプリメント|選び方・飲み方・注意点
【この章の要点】
- 基本は食事から。サプリはあくまで補助的な選択肢。
- 腎臓病やアルコール依存、特定の薬剤使用者は医師への相談が不可欠。
- 剤形に関わらず、含有量と総量の管理が最も重要。
不足リスクが高い人|高齢者・アルコール多飲・妊婦など
高齢者、妊娠中(特に妊娠悪阻)、腎不全・透析中の方、アルコール依存症、炎症性腸疾患などの吸収不良がある方は、ビタミンB6が不足しやすいため、気になる場合は医師に相談しましょう。
薬との相互作用|注意すべき医薬品リスト
結核治療薬(イソニアジド)などでは、医師の管理下でB6補充が行われることがあります。パーキンソン病治療薬(レボドパ単剤)はB6で効果が弱まることが知られていますが、現在の主流である配合剤では問題になりにくいなど、専門的な判断が必要です。お薬を服用中の方は、自己判断せず必ず主治医や薬剤師にご相談ください。
サプリ選びのチェックリスト|用量・形態・第三者認証
もし専門家と相談の上で利用する場合は、以下の点を確認しましょう。
- 用量: 1粒あたりの量が耐容上限量を大きく下回っているか。
- 形態(ピリドキシン/PLP): 神経障害の報告は主にピリドキシン(PN)高用量で蓄積していますが、規制当局は‘総ビタミンB6’として上限を設定しています。形態にかかわらず総量(mg)の管理を最優先にしてください。
- 第三者認証: GMP認証など、品質が保証されている製品を選ぶとより安心です。
効果的な摂取タイミングと他のビタミンB群との相性
ビタミンB6は水溶性のため、一度に多量に摂るより、食後に複数回に分けて摂る方が効率的とされます。また、ビタミンB群はチームで働くため、単体でなく「ビタミンB群(コンプレックス)」としてバランスよく摂るのが合理的です。その際、他のサプリと合わせてB6の総量が過剰にならないか確認しましょう。
FAQ|ビタミンB6のよくある質問
Qサプリを飲み始めたら少し吐き気がします。過剰摂取でしょうか?
過剰摂取の初期症状として吐き気などが報告されています。少量でも体質に合わない可能性も考えられます。まずは摂取を中止し、量が適切か、製品が合っているかなどを医師や薬剤師にご相談ください。
Qサプリはいつ飲むのが効果的ですか?
上述の通り、水溶性ビタミンは食後に摂るのが一般的です。製品の推奨に従いつつ、継続しやすいタイミングで飲むのが良いでしょう。
QビタミンB群(コンプレックス)のサプリを飲んでいますが、さらにB6単体のサプリを追加で摂っても大丈夫ですか?
自己判断での併用は、ビタミンB6の過剰摂取リスクを高めるため推奨されません。まずは現在お飲みのB群サプリメントにB6が何mg含まれているかを確認してください。その上で、他のサプリや食事からの摂取量を合わせ、耐容上限量(成人女性で45mg/日など)を超えないか総合的に判断する必要があります。ご自身での判断が難しい場合は、必ずかかりつけの医師や薬剤師に、製品パッケージを持参の上でご相談ください。
まとめ|ビタミンB6を安全に効果的に活用するポイント
この記事を読んで、「あれもこれもやらなきゃ」と気負う必要は全くありません。完璧な食事を毎日続けるのは難しいものです。大切なのは、完璧よりも継続。まずは、この記事を参考に、できることから始めてみてください。
- ビタミンB6は、タンパク質代謝を支える「修復サポーター」。
- まずは1日1.2〜1.5mgを目安に、鶏肉、魚、バナナなど身近な食品から。
- サプリメントは便利な一方、長期・過剰摂取には神経障害のリスクがあることを忘れない。
- 体の不調は、安易に栄養不足と結びつけず、専門家への相談を基本とする。
【免責事項】
この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスに代わるものではありません。持病のある方、妊娠中の方、その他健康に不安のある方は、サプリメントの摂取や食事療法を始める前に、必ず医師や管理栄養士にご相談ください。
【参考文献】
[1] 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書.
[2] National Institutes of Health, Office of Dietary Supplements. Vitamin B6 – Health Professional Fact Sheet.
[3] Ueland PM, McCann A, Midttun Ø, Ulvik A. Inflammation, vitamin B6 and related pathways. Mol Aspects Med. 2017;53:10-27.
[4] Brown MJ, Ameer MA, Beier K. Vitamin B6 Deficiency. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan-.
[5] Wyatt KM, Dimmock PW, Jones PW, Shaughn O’Brien PM. Efficacy of vitamin B-6 in the treatment of premenstrual syndrome: systematic review. BMJ. 1999;318(7195):1375-81.
[6] 文部科学省. 日本食品標準成分表2020年版(八訂).
[7] Lheureux P, Penaloza A, Gris M. Pyridoxine in clinical toxicology: a review. Eur J Emerg Med. 2005;12(2):78-85.
[8] Matthews A, Haas DM, O’Mathúna DP, Dowswell T. Interventions for nausea and vomiting in early pregnancy. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(9):CD007575.
[9] McParlin C, O’Donnell A, Robson SC, Beyer F, Moloney E, Bryant A, et al. Treatments for Hyperemesis Gravidarum and Nausea and Vomiting in Pregnancy: A Systematic Review. JAMA. 2016;316(13):1392-1401.
[10] ACOG Practice Bulletin No. 189: Nausea and Vomiting of Pregnancy. Obstet Gynecol. 2018;131(1):e15-e30.
[11] Whelan AM, Jurgens TM, Naylor H. Herbs, vitamins and minerals in the treatment of premenstrual syndrome: a systematic review. Can J Clin Pharmacol. 2009 Fall;16(3):e407-29.
[12] Mikkelsen K, Stojanovska L, Apostolopoulos V. The Effects of Vitamin B in Depression. Curr Med Chem. 2016;23(38):4317-4337.
[13] Ford AH, Flicker L, Alfonso H, Thomas J, Clarnette R, van Bockxmeer F, et al. The effect of long-term vitamin B12, B6, and folic acid supplementation on the risk of depression in older adults: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. J Clin Psychiatry. 2019;80(2):17m12042.