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その常識、見直しませんか?「基礎代謝=最低摂取カロリー」という誤解と正しい知識
ダイエットや健康について調べると、必ずと言っていいほど目にする「基礎代謝」という言葉。「基礎代謝を上げよう」「基礎代謝分のカロリーは摂ろう」といった情報もよく見かけます。
多くの情報源で、「基礎代謝とは、生命維持に最低限必要なエネルギーのこと」と説明されており、これは非常に分かりやすい表現です。しかし、この「最低限必要」という部分の解釈が、実は健康管理において思わぬ落とし穴になる可能性があるのです。
この記事では、広く浸透している基礎代謝に関する「よくある誤解」を解き明かし、その誤解がもたらすデメリット、そして正しい知識を持つことのメリットについて、分かりやすく解説していきます。
基礎代謝の「よくある誤解」とは?
私たちが「基礎代謝 = 生命維持に最低限必要なエネルギー」と聞くと、多くの場合、無意識のうちに次のように解釈してしまいがちです。
- よくある誤解:「基礎代謝量とは、生きていくために最低限『摂取しなければならない』エネルギー量である」
この解釈は、「基礎代謝量を下回るカロリー摂取は危険」「ダイエット中でも、最低でも基礎代謝量分のカロリーは必ず摂るべきだ」といった考え方に直結します。
この表現が広まっている理由は、おそらく「生命維持に使うエネルギー」という概念を、一般の人にもイメージしやすく伝えるためでしょう。しかし、この「分かりやすさ」が、かえって不正確な理解を生む原因にもなっています。
誤解が招くデメリット:なぜ「最低限必要」と考えるのはリスクなのか?
「基礎代謝量 = 最低限摂取すべき量」と捉えることには、いくつかのデメリットやリスクが潜んでいます。
デメリット1:慢性的なエネルギー不足を招く可能性
もし基礎代謝量を「摂取目標の下限」として設定してしまうと、日常生活や運動で消費するエネルギー(活動エネルギー)が考慮されません。その結果、体が必要とする総エネルギー量を下回ってしまい、慢性的なエネルギー不足に陥るリスクがあります。これは、体調不良や疲労感の原因となるだけでなく、長期的に見ると健康を損う可能性があります。
デメリット2:代謝の低下やリバウンドしやすい体質に繋がる恐れ
慢性的(長期間)なエネルギー不足が続くと、体はエネルギー消費を抑えようとして筋肉を分解しやすくなります。筋肉量が減ると基礎代謝自体も低下し、痩せにくく、リバウンドしやすい体質になってしまう可能性があります。また、ホルモンバランスの乱れを引き起こすこともあり、近年ではスポーツ栄養学の分野などで「利用可能エネルギー不足(REDs)」と呼ばれ(※1)、疲労骨折や女性の月経不順など、深刻な健康問題に繋がることも指摘されています。
デメリット3:不正確な目標設定になりやすい
私たちが計算式(ハリス・ベネディクト式など)で知ることができる基礎代謝量は、あくまで「推定値」です。実際の基礎代謝量は、筋肉量、体質、体調などによって個人差が大きく、計算値とズレがあるのが普通です。研究によっては、推定値と実際の測定値との間に±10%以上の誤差が出ることも珍しくないと報告されています(※2)。 この「推定値の誤差」と、次のセクションで説明する「身体活動量」の個人差が組み合わさると、特に活動量が極端に少ない人の場合、体組成計や計算式で示された「推定の基礎代謝量」よりも、実際の「1日の総消費エネルギー量(TDEE)」の方が低くなるという逆転現象さえ起こり得ます。 その結果、「体組成計で表示された基礎代謝量以下の食事なのに痩せない(場合によっては太る)」という事態を招くことがあり、この推定値を絶対的な「最低ライン」と考えること自体が、不正確な目標設定に繋がるのです。
解決策:「基礎代謝」の本当の意味を理解しよう
では、基礎代謝量(Basal Metabolic Rate, BMR)とは、正確には何を指すのでしょうか?
正確な定義:「完全に安静な状態(覚醒しているが、心身ともにリラックスし、食事の影響もない状態)で、生命維持活動(呼吸、心拍、体温維持、内臓の活動など)のために、体が実際に『消費した』エネルギーの量」(※3)
ここで最も重要なのは、「消費した」という言葉です。基礎代謝量は、私たちが何かを「摂取すべき」量(インプット)を示す指標ではなく、生命活動の結果として体が現実に使ったエネルギー量(アウトプット)を測定、または推定した値なのです。
つまり、
- 誤解: 生命維持に「必要な」最低限の「摂取」エネルギー量
- 正確: 生命維持のために「使われた」最小限の「消費」エネルギー量
この違いを明確に理解することが、誤解を解くための最も重要なステップです。基礎代謝量は、食事の目標ラインではなく、自分の体がどれだけのエネルギーを安静時に使っているかを知るための「実績値」や「推定値」と捉えましょう。
正しく理解するメリット:基礎代謝の知識を健康管理に活かす
基礎代謝を「消費エネルギー」として正しく理解すると、健康管理において以下のようなメリットがあります。
- メリット1:自分の体のエネルギー消費の「土台」を知る目安になる
基礎代謝量は、私たちが1日に消費する総エネルギー量(TDEE: Total Daily Energy Expenditure)の大部分を占める重要な要素です。自分の基礎代謝量の目安を知ることは、エネルギー消費全体の規模感を把握する上で役立ちます。 - メリット2:より現実的なエネルギー収支の視点を持てる
1日の総消費エネルギー量(TDEE)は、主に以下の3つの要素で構成されています。(TDEEの各要素についてのより詳しい解説は、こちらの記事(ダイエットとエネルギー消費の仕組み:科学的に痩せる基礎知識)もご覧ください。)
| 構成要素 | 内容 | 1日の総消費エネルギーに占める目安* | 備考 |
|---|---|---|---|
| 基礎代謝量 (BMR/RMR) | 生命維持のための最小限の消費 | 約 60〜70% | 体格や筋肉量によって変わります |
| 身体活動量 | 日常生活や運動による消費 | 約 15〜50% | 個人差が最も大きい要素です。意図的な運動(EAT)に加え、NEAT(非運動性熱産生)と呼ばれる日常の動きも含まれます。 |
| 食事誘発性熱産生 (TEF) | 消化・吸収のための消費 | 約 8〜15% | 食事内容(特にタンパク質)によってやや変動しますが、日常的な食事では10%前後に収まることが多く、15%を超えるのは稀です |
- 目安は一般的なものであり、個人差が非常に大きいため、あくまで参考値です。 基礎代謝を正しく理解することで、「基礎代謝量だけ」で食事量を決めるのではなく、自分の活動レベルも考慮したTDEE全体と摂取エネルギー量のバランスを見る、というより正確で現実的な視点を持つことができます。
- メリット3:安全で効果的な健康管理計画に繋がる
「基礎代謝量=最低摂取ライン」という誤った思い込みから解放されることで、極端なカロリー制限のリスクを避け、自分の活動量や目的に合った、より安全で効果的な食事計画や運動計画を立てるための土台となる知識が得られます。無理なく健康的な体づくりを進めるための、正しい判断が可能になります。
まとめ
「基礎代謝とは、生命維持に最低限必要な摂取エネルギーである」という考えは、広く浸透していますが、誤解を生みやすい表現です。
正しくは、「安静時に生命維持のために消費されたエネルギー量」を示す数値であり、それ自体が食事量の目標ラインとなるわけではありません。
この誤解は、不適切なカロリー設定やそれに伴う体調不良、代謝の低下などを招くリスクがあります。基礎代謝の正しい意味を理解し、自分の活動量なども含めた総消費エネルギー量(TDEE)とのバランスでエネルギー収支を考えることが重要です。
基礎代謝に関する正しい知識は、より安全で効果的な健康管理やダイエットを進めるための第一歩となります。ぜひこの知識を、ご自身の健康づくりに役立ててください。
【脚注】
- (※1)利用可能エネルギー不足(REDs)について:
REDs(Relative Energy Deficiency in Sport)は、運動による消費エネルギーに対して食事からの摂取エネルギーが慢性的に不足することで生じる健康問題の総称です。当初は女性アスリート特有の問題(月経不順、骨粗しょう症など)として注目されましたが、現在では性別や競技レベルに関わらず、一般の運動愛好家にも起こり得るとされています。 - (※2)基礎代謝の推定式とその誤差について:
私たちがインターネットなどで利用できる基礎代謝の計算式(ハリス・ベネディクト式やミフリン式など)は、あくまで「推定値」を出すものです。実際の測定値と比較した研究(例:Frankenfield D, et al. 2005)では、これらの計算式が多くの人(60〜70%程度)では±10%程度の誤差に収まる一方で、一部の人では±10%以上の大きな誤差が生じることも報告されています。計算値は絶対的なものではなく、あくまで目安として捉えることが重要です。 - (※3)基礎代謝(BMR)と安静時代謝(RMR)について:
厳密には、BMRは「早朝空腹時、快適な室温で、心身ともに完全に安静な状態」など非常に厳格な条件下で測定される最小限のエネルギー消費を指します。一方、私たちが普段の生活で使う「基礎代謝」という言葉や、体組成計などで測定される数値は、もう少し緩やかな条件(例:食後数時間後、椅子に座って安静にするなど)で測る「安静時代謝量(RMR)」を指すことがほとんどです。RMRはBMRよりわずかに高い値になる傾向がありますが、一般の健康管理においては、ほぼ同じものとして扱っても大きな支障はありません。
主な参考文献
- Mountjoy M, et al. (IOC). (2023). International Olympic Committee (IOC) consensus statement: Relative Energy Deficiency in Sport (REDs) 2023 update. Br J Sports Med, 57:1073-1097. doi:10.1136/bjsports-2023-106994
- Frankenfield D, et al. (2005). Comparison of predictive equations for resting metabolic rate in healthy nonobese and obese adults: a systematic review. J Am Diet Assoc, 105(5):775-789. doi:10.1016/j.jada.2005.02.005
- Compher C, et al. (2006). Best practice methods to apply to measurement of resting metabolic rate in adults: a systematic review. J Am Diet Assoc, 106(6):881-903. doi:10.1016/j.jada.2006.08.015
- Mifflin MD, et al. (1990). A new predictive equation for resting energy expenditure in healthy individuals. Am J Clin Nutr, 51(2):241-247. doi:10.1093/ajcn/51.2.241
- Westerterp KR. (2004). Diet induced thermogenesis. Nutr Metab (Lond), 1:5. doi:10.1186/1743-7075-1-5
- FAO/WHO/UNU. (2004). Human Energy Requirements: Report of a Joint FAO/WHO/UNU Expert Consultation. Rome: Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO Food and Nutrition Technical Report Series, No. 1).

